題 行かないで
「行かないで」
そう言いたかった。私を見捨てないで。
ずっとそばにいて、そう言いたかった。
でもあなたにはやることがあって。
目標があって。
だからここに留まることは出来なかったんだよね。
あなたは私に向かって優しい瞳で言った。
「私、やりたいことがあるから、違う大学にいくけど、ずっと親友だよ」
ずっとずっと隣りにいたのに。
小さい頃からあなたは私の幼なじみで、支えで、元気の源で、一緒にいたら強くなれたのに。
「うん」
私は涙を溜めた目で頷くことしか出来なかった。
だって、どれだけ夢に向かって頑張ってるか一番知ってたから。
一番近くで見ていたから。
だから止めることなんて出来るわけもなかった。
それでも思ってしまう。
あなたが私とこれまで通り一緒にいてくれたら。
笑ってくれたら。
悩みを相談しあえたら。
いつでも会いたい時に会えたら。
一番大事な親友だから。
だからこそ、一番幸せで居てほしいのに、一番近くにいてほしくて。
そんな揺れる気持ちに私はどうしていいか分からなくなる。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか。
親友は私の頭に軽く手を乗せた。
「何かあったらいつでも何でも話してね」
「うん・・・」
その言葉に涙腺が崩壊してしまう。
行かないでほしい。
行かないで。
あなたは私の希望なんだ。
ずっと横にいてほしい唯一の親友なんだ。
だから、私と一緒にこれからも同じ景色を見ていてほしい・・・。
ひとしきり泣いている私をただ、黙って頭を撫で続けるあなた。
私は落ち着いて深呼吸すると、親友の顔をみて泣き笑いする。
「ごめんね泣いちゃって」
一緒にいたい、いたいけど・・・、やっぱり、親友には自分のやりたいことを追い続けてほしい。
そして私も、親友に誇れるくらい、自分のやりたいことを見つけたい。
今は何もない私だけど、あなたが自分のやりたいことを追っていくなら、わたしもあなたを追いかけるよ。
やりたいことを見つけて、自分を磨くよ。
だって、あなたにがっかりされたくないから。
がっかりしない人って分かってる。それでも・・・。
あなたが誇ってくれる人に、自分が誇れる人になりたいから。
もう少し、強くなりたい・・・。
私から思わずこぼれた言葉に、あなたは微笑む。
「うん、唯ならなれるよ、私の自慢の親友だもん」
その言葉に、また涙腺が緩んだけど、私は強い決意をもって、これからの道を進もうと同時に思ったんだ。
題 どこまでも続く青い空
どこまでもどこまでも続いていく。
私は河原に座って空をじーっとみていた。
見れば見るほど色がキレイで見入ってしまう。
私の中から何かこみ上げてくる。
この青いグラレーション、雲の柔らかなふんわりしたデコレーション。
それら全てを写真に収めたとしても、決してそのままじゃないんだ。
私にしか見えない瞬間があるんだ。
その一つ一つを確かめるように、私は空をジッと眺めている。
瞬間瞬間を記憶したい。
この透明感のある、どこまでも続いている、宇宙までも続いている途切れない青い空。
その無限にも思える空を、今見えている私ってとてつもなく幸せなんじゃないかって思う。
奇跡のような確率で生まれてきた人類。
他の星にはまだ生物だって観測されてない。
だから、私という存在がこの星に生まれて、平和で、この河原で、とてつもなく魅力的な空を見ている瞬間は、私だけの奇跡なんだ。
いくら見ていても飽きない。
そうして放課後ジッと、空を眺めていると、いつしか空は優しいピンク色に色づいていく。
濃いオレンジに変わり、それから紫色に・・・。
夜の気配がしてきた頃、私は名残惜しく感じながらその場を去る。
今日観測出来た軌跡を心の中に記憶しながら。
明日には見られない今日だけの空を心のスクリーンに投影しながら。
題 衣替え
「ねえねえ、見て!この服、こないだ衣替えして出てきたの、私のお気に入りコーデ!」
少し肌寒くなった秋、私は衣替えで出てきた去年の服を着て、幼なじみのハルトの所へいそいそとやってきたんだ。
実はハルトのこと気になってるし、あわよくば褒められたいという下心付きで。
「ふーん」
ハルトは私を一瞥すると、手元の携帯の画面に視線をすぐに移した。
「ちょっと、何よ、その反応?似合ってるとかそういう言葉はないの?」
「似合ってるんじゃない?あ、よく見るとすごーく似合ってたわ」
厭味ったらしくいうハルトに私の怒りゲージがじわじわ上がっていく。
「ねえ、そういう言い方で言われても全然嬉しくないんだけど」
「はぁ?じゃあどういう言い方だと納得するわけ?」
ハルトとこんな会話したいわけじゃないのに。
好きな人とこういう言い合いになっちゃうことに悲しい気持ちになる。
「えっと、ドラマの中のイケメンみたいに、似合ってるよ、かわいいよとか」
「・・・本当に、そんな事言われたいって思ってる?」
ハルトの呆れ顔に私はうつむく。
良く考えるとハルトのキャラじゃなさすぎる。
プラスそんなこと言われたら私の心臓がもたない。
「あ、やっぱ・・・」
いいって言おうとして顔を上げるとハルトが間近に移動してきてた。
おまけに、顎に手をかけて上を向かされる。
「似合ってるよ、ミカ、凄く可愛い」
・・・一瞬で私の体内の血液が沸騰したかとおもった。
グラグラと煮立ったように全身が熱くなって固まっている私を見て、ハルトは面白そうな顔をする。
「大丈夫?凄く赤くなってるけど」
「だ、大丈夫っ、気にしないでっっ」
勢いよくいい切ったけど、ハルトはケラケラ笑ってる。
くそぉ、全然私のこと意識してないな。
みてなさい、絶対に私から視線を外せないように可愛くなってみせるんだから。
私はハルトを強い決意の眼差しで見ながらオシャレ研究頑張るぞ、と思ったのたった。
題 声が枯れるまで
私は歌ってる。
今日も誰もいない広い公園まで来て大好きな歌を空へと響かせる。
音符が空へと飛んでいるイメージで
風に含まれてその音符達が美しくクルクルと上空へと舞い上がっているような想像
私は歌い続ける
歌うのが好きだから
希望だから
何も日常にいいことがないから
人が信用できないから
辛いことしかないから
この世の中に諦めることしかないから
私の心がグレーだから
そうなの
何もないから
私には何もない気がしているから
だからこそ余計に歌いたい気持ちに包まれる
歌声が響くと心が軽くなる
歌が色とりどりの色を持って私自身も包んでくれる気がする。
そうすると身体がふわりと浮き上がって
全てが
全てを癒してくれる気がする
そうして空を見上げながら歌っていると
目尻に涙が浮かんでくる
風でひんやり感じて
このまま何もかも忘れて歌い続けたいと思ってしまう
でもね
いつしか何もかも忘れて歌い続けていると
声が掠れてくることに気がつくんだ
声の限界を感じるまでいつも歌ってしまう
私は苦笑して、それでも胸の中の何かを出せたような、心の色がグレーから淡い緑色に変わったように感じながら
いつもの帰路をたどるんだ
なにもない私
なにもなかった私
でも、私には歌があるんだ
そしてその歌を歌う私、っていう存在があるんだ
歌い終わった時いつも
それを強く意識しては希望の欠片を胸に感じている
題 すれ違い
あ・・・
私は図書館で一人の青年とすれ違った
カッコイイ・・・去っていった青年を振り返る
爽やかな青いシャツに白いインナー、ジーンズを履いて、髪の毛も綺麗な黒髪・・・って
あれって河下くんじゃない?!
学校では地味な感じで前髪下ろしてたのに、今すれ違った河下くんは、髪の毛もきちんと整えてて、服装もピシッとしてて、とてもカッコよくて学校の河下くんのイメージと大分違った。
私は本を抱えながらしばらく河下くんが小さくなっていくのを見つめていた。
声をかければよかったかなって思ったけど、あまりに印象が違ってて、ぽかんと見送ることしかできなかったんだ。
次の日、いつものように地味な格好で登校してくる河下くんを見て、私は遠くの机からどうしてあんなに印象違うんだろうなと思った。
髪の毛だけなのかな?あ、メガネもかけてるし、それも違うかも。
わざわざメガネかけないほうがいいし、髪も整えてくればいいのに、と思いながらぼーっと机に肘をついて見ていた。
でも、なんでかな、声をかけられなかった。
それに、教室で見る河下くんの姿も、いつもよりカッコよく見えてしまったんだ。
「河下くん」
次の休日、図書館で河下くんを見かけた私は思い切って声をかけた。
もしかして会えるかも、と午前中から勉強していたことは河下くんには秘密だ。
「あれ?仁科さん」
河下くんはビックリした顔で私を振り返る。
「偶然だね」
ニコッと笑いかけると、視線をそらされた。
・・・あれ?
「あ、その本、魔法学校の本、私も読んだよ」
「本当?この本好きな人周りにいないんだ」
私の言葉を聞くと、河下くんは笑顔で魔法学校の3巻の表紙を見せる。
「そっかぁ、ファンタジーブーム、ちょっと前に終わったからね。私は全巻読んで、今度は上級魔法学校の本読んでるよ。続編なんだけど面白いよ」
「そうなんだ、これ読み終わったら次は読みたいと思ってる。マリーンが好きなんだよね」
「わかる、私が好きなキャラはね・・・」
いつの間にか近くのベンチに座って2人で話し込んでいた。
魔法学校シリーズは最近私のマイブームだから、話の話題は尽きない。
さっきはぎこちなかった河下くんも、打ち解けてくれたみたいで嬉しかった。
「河下くんとこんな話が出来るなんて!学校では大人しいでしょ?話したことなかったよね?」
「うん、人と関わるの苦手で、あまり目立たないようにしてたんだ」
「あ、だからメガネと髪の毛違うの?」
それと、さっき目を逸らしたのもそのせいかな?
「そう、家にいると姉ちゃんに出かけるなら髪整えてコンタクトにしろって言われる」
「なるほどね」
私はそんなふうに言われてしぶしぶ髪を整えてる河下くんを想像してフフッと笑った。
「似合ってるよ」
そして、河下くんにそう言った。
本心だ。実際にかっこよくて見かけた初日振り返ってしまったんだから。
「ありがとう」
河下くんは照れながら、でも素直にお礼を言った。
「仁科さんと本の話出来てよかったよ」
「また話そうよ!図書館来るでしょ?私もまだ続編借りたいし、魔法系の本が好きならまだオススメの本紹介したいし!」
「本当!?それは心強いよ。魔法系読みたいんだけど、どれがいいのか分からなくて、次に読む本とか迷ってたから」
「まかせて」
と、私は胸をたたく。
「お任せします」
おどけたように言う河下くんの言葉に2人で笑う。
「もっと早く話しかければよかったな」
そう言うと、河下くんも頷いた。
「そうだね、でも、これから沢山話そうよ」
と言ってくれる。
その優しいまなざしに、私はドキッとした。
カッコイイ河下くんにいまさらながら気づいてしまった。
「う、うん」
今度は私がぎこちなくなってしまう。
そわな私を不思議そうに見る河下くん。
これからの日常に期待とときめきの予感を感じながら、私は言葉を続ける。
「これからよろしくね、河下くん」