題 声が枯れるまで
私は歌ってる。
今日も誰もいない広い公園まで来て大好きな歌を空へと響かせる。
音符が空へと飛んでいるイメージで
風に含まれてその音符達が美しくクルクルと上空へと舞い上がっているような想像
私は歌い続ける
歌うのが好きだから
希望だから
何も日常にいいことがないから
人が信用できないから
辛いことしかないから
この世の中に諦めることしかないから
私の心がグレーだから
そうなの
何もないから
私には何もない気がしているから
だからこそ余計に歌いたい気持ちに包まれる
歌声が響くと心が軽くなる
歌が色とりどりの色を持って私自身も包んでくれる気がする。
そうすると身体がふわりと浮き上がって
全てが
全てを癒してくれる気がする
そうして空を見上げながら歌っていると
目尻に涙が浮かんでくる
風でひんやり感じて
このまま何もかも忘れて歌い続けたいと思ってしまう
でもね
いつしか何もかも忘れて歌い続けていると
声が掠れてくることに気がつくんだ
声の限界を感じるまでいつも歌ってしまう
私は苦笑して、それでも胸の中の何かを出せたような、心の色がグレーから淡い緑色に変わったように感じながら
いつもの帰路をたどるんだ
なにもない私
なにもなかった私
でも、私には歌があるんだ
そしてその歌を歌う私、っていう存在があるんだ
歌い終わった時いつも
それを強く意識しては希望の欠片を胸に感じている
題 すれ違い
あ・・・
私は図書館で一人の青年とすれ違った
カッコイイ・・・去っていった青年を振り返る
爽やかな青いシャツに白いインナー、ジーンズを履いて、髪の毛も綺麗な黒髪・・・って
あれって河下くんじゃない?!
学校では地味な感じで前髪下ろしてたのに、今すれ違った河下くんは、髪の毛もきちんと整えてて、服装もピシッとしてて、とてもカッコよくて学校の河下くんのイメージと大分違った。
私は本を抱えながらしばらく河下くんが小さくなっていくのを見つめていた。
声をかければよかったかなって思ったけど、あまりに印象が違ってて、ぽかんと見送ることしかできなかったんだ。
次の日、いつものように地味な格好で登校してくる河下くんを見て、私は遠くの机からどうしてあんなに印象違うんだろうなと思った。
髪の毛だけなのかな?あ、メガネもかけてるし、それも違うかも。
わざわざメガネかけないほうがいいし、髪も整えてくればいいのに、と思いながらぼーっと机に肘をついて見ていた。
でも、なんでかな、声をかけられなかった。
それに、教室で見る河下くんの姿も、いつもよりカッコよく見えてしまったんだ。
「河下くん」
次の休日、図書館で河下くんを見かけた私は思い切って声をかけた。
もしかして会えるかも、と午前中から勉強していたことは河下くんには秘密だ。
「あれ?仁科さん」
河下くんはビックリした顔で私を振り返る。
「偶然だね」
ニコッと笑いかけると、視線をそらされた。
・・・あれ?
「あ、その本、魔法学校の本、私も読んだよ」
「本当?この本好きな人周りにいないんだ」
私の言葉を聞くと、河下くんは笑顔で魔法学校の3巻の表紙を見せる。
「そっかぁ、ファンタジーブーム、ちょっと前に終わったからね。私は全巻読んで、今度は上級魔法学校の本読んでるよ。続編なんだけど面白いよ」
「そうなんだ、これ読み終わったら次は読みたいと思ってる。マリーンが好きなんだよね」
「わかる、私が好きなキャラはね・・・」
いつの間にか近くのベンチに座って2人で話し込んでいた。
魔法学校シリーズは最近私のマイブームだから、話の話題は尽きない。
さっきはぎこちなかった河下くんも、打ち解けてくれたみたいで嬉しかった。
「河下くんとこんな話が出来るなんて!学校では大人しいでしょ?話したことなかったよね?」
「うん、人と関わるの苦手で、あまり目立たないようにしてたんだ」
「あ、だからメガネと髪の毛違うの?」
それと、さっき目を逸らしたのもそのせいかな?
「そう、家にいると姉ちゃんに出かけるなら髪整えてコンタクトにしろって言われる」
「なるほどね」
私はそんなふうに言われてしぶしぶ髪を整えてる河下くんを想像してフフッと笑った。
「似合ってるよ」
そして、河下くんにそう言った。
本心だ。実際にかっこよくて見かけた初日振り返ってしまったんだから。
「ありがとう」
河下くんは照れながら、でも素直にお礼を言った。
「仁科さんと本の話出来てよかったよ」
「また話そうよ!図書館来るでしょ?私もまだ続編借りたいし、魔法系の本が好きならまだオススメの本紹介したいし!」
「本当!?それは心強いよ。魔法系読みたいんだけど、どれがいいのか分からなくて、次に読む本とか迷ってたから」
「まかせて」
と、私は胸をたたく。
「お任せします」
おどけたように言う河下くんの言葉に2人で笑う。
「もっと早く話しかければよかったな」
そう言うと、河下くんも頷いた。
「そうだね、でも、これから沢山話そうよ」
と言ってくれる。
その優しいまなざしに、私はドキッとした。
カッコイイ河下くんにいまさらながら気づいてしまった。
「う、うん」
今度は私がぎこちなくなってしまう。
そわな私を不思議そうに見る河下くん。
これからの日常に期待とときめきの予感を感じながら、私は言葉を続ける。
「これからよろしくね、河下くん」
題 秋晴れ
ひらひら
落ちてくる落ち葉が私の髪をかすった。
公園のベンチで本を読んでいた私はふと顔をあげる。
秋の涼しさを含んだ風に揺られて
木から葉っぱたちがはらはらと舞い落ちてくる。
ひらり、ひらり、とたくさんの葉が舞い降りてくる様はまるで色とりどりの花びらが舞っているようだ。
私はため息をつくと、読んでいた本を閉じた。
立ち上がって、木の側に行ってそっと幹に手を当てて上を見上げる。
優しい、儚い、切ない、そして癒し
いろんな感情を覚える。
ただ上を見て木の葉が落ちる所を見ているだけなのに、私の胸にはたくさんの想いがよぎっていく。
ずっと見ていたい気持ちに囚われる。
木の葉の舞い降りるこの空間、涼しい風が髪をかすっていく感覚。優しくそして物悲しく感じるこの場所時間を、ずっと感じていたいな。
どれだけそうしていたたろう。
「なみ?また変なことして」
後ろから友人の声がする。
私は残念な気持ちになりながら振り返る。
「あ、ゆうきちゃん」
「よく木に触ってるよね」
ゆうきちゃんは呆れたような調子で私に言う。
「うん・・・落ち葉をもっと近くで見たくて」
もっと感じたことを伝えたいのに、私の語彙力がなくて伝えられない。
「へんなの〜。落ち葉見て楽しいの?」
「うん・・・」
今日もわかってもらえなかった・・・しゅんとした私をみて、ゆうきちゃんは、肩をポンとたたく。
「ほら、落ち込んでないで、なみの好きなパンケーキ食べに行くんでしょ?」
「うん、行こう」
おっとりした私にいつもお姉さんみたいに世話を焼いてくれるゆうきちゃん。
いつかこの落ち葉の魅力を分かってほしいなぁ。
伝えたいなぁ。
私は名残惜しい気持ちで、木を一瞥して、ゆうきちゃんとパンケーキを食べに行ったのだった。
題 やわらかな光
ふんわりと舞い降りてくる光
ふと視線を上げた私は空を見て、柔らかい日差しがまるで光のカーテンのようだと感じる。
じりじりと暑い日差しでもなく、ちょうど良い気温にほわほわと降り注いでくる光に、少しまどろみそうになる。
ベンチに座って図書館の前で彼氏を待っていた私は、再び眠りに引き込まれそうになって、まぶたを軽くこすった。
それでもこんこんと光は降り積もっていく。
光は粒子だけど下に積もったりしないのかな。
ふとそんな事が頭をよぎる。
そうしたら、地面にどんどん光の粒子が積もって、いつの間にか辺りは真っ暗になって、私は光の粒だらけの空間に取り残されて、ベンチに座っていた。
立ち上がれない
どうしよう
焦燥感に焦っていると、誰かが私を呼んだ。
「翔子!」
「はっ!」
気づくと、私はベンチで寝ていたみたいだ。
目の前には心配そうな彼氏の顔。
「大丈夫か?うなされてたみたいたけど」
「う、うん・・・」
そういいながら辺りを見回す。まだ明るい。
時計を見るとあれから10分も経っていなかった。
夢だったみたいだ。
「今日の光が柔らかくて、眠くて、あっという間に眠りの世界に引き込まれちゃった」
「そっか」
彼氏は顔を上げて空を見上げた。
「確かに気持ちいい風に天気だからな。待たせてごめんな。カフェに行って眠気でも覚まそうか?」
「うん、そうしよう、私爽やかな飲み物が飲みたいな」
私は荷物を持ってその場を立ち上がろうとする。
一瞬、夢と同じで動けないかもと思ったけど、軽々と立ち上がれた。
光の粒は物理的に積もったりしないよね、あの場面からきっと夢だったんだな。
そう自分で納得する。
それから、ふと、もう一度空を見る。
やっぱり今日の光はとても優しい。
思わず目を閉じかけて、私は首を降ると、ピシャ、と軽く頬を叩いて目を覚ました。
そして、彼氏とお気に入りのカフェに仲良く向かったのだった。
題 鋭い眼差し
何か視線を感じるっ!!
ビクッ
私はおそるおそる教室の後ろを振り返る。
斜め後ろの席に座っている田代くんと目が合う。
よく目が合うんだよなぁ。
なんだろ。
私が怪訝な顔をしてみると、田代くんが鋭い眼差しで私をギロッと睨む。
私は電光石火の速さで顔を戻す。
・・・なんなんだろう。
結構頻繁に視線を感じる。
しかも睨まれてる。
やだなぁ、何か文句でもあるのかな。
憂鬱な気持ちになる。
次の休み時間、友達のたかちゃんに田代くんのことを話してみた。
「そうだね、何だろうね?前から目が合うんでしょ?黒板が見えないとか?」
「あ、それはあるかも。私背が高いし。くじで席決まったから、どうにもならないんだけど・・・」
「それで、うらみつらみがたまっちゃってるのかもよ〜?!」
冗談っぽくからかってくるたかちゃんに、もーってふざけて返したものの、私の心の中には不安が渦巻いていた。
どうしよう、出来るだけ小さくなろうか?
次の授業の時間は出来るだけ首をすぼめて授業を受けていたけど、やっぱり視線を感じる・・・。
振り返ると眼光鋭い田代くんの視線が・・・。
もうどうしたらいいの〜!?
私がパニックになっていると、次の昼休みの時間、田代くんに呼び出された。
一緒に人気のない廊下に誘導される。
ここで罵倒されるのかな?!と身構えていると・・・。
「好きです、付き合ってください」
つて言われた。
「は?」
私は呆気にとられてそんな返答しかできなかった。
だって、だって、よりにもよって、そんな言葉が降り掛かってくるとは思わなかったから。
「えっと、好きなんだけど・・・」
は?なんて失礼なこと言っちゃったって気づいて、慌てて言葉を付け足す。
「あ、ごめんね、違うの、私田代くんににらまれてたから、何かしちゃったのかなって思ってたから、まさか告白されると思ってなくて・・・」
誤解を解こうと全て正直に白状してしまう。
「あっ、僕、最近コンタクトに変えたんだけど、度数が合わなくて作り直してもらってるところで・・・。今あまり周りが見えないから、ちょっと目つきわるかったかも・・・」
「あ、そーだったんだね、ごめん、睨まれてると思っちゃった・・・」
私がそう言うと、田代くんは頭をかきながら言う。
「まぁ、僕が誤解させるような行動取ったのが悪いから・・・それで、返事はどうかな・・・?」
そう言われて、初めて、告白されたことによる、心臓の鼓動の早まりを感じた。
ど、どーしよ。私、田代くんには睨まれてるって思ってたからそんな気持ち全然ないし・・・。
でも改めて田代くんの顔をみると、端正な顔立ちをしてる・・・気がする。
でも・・・でも、やっぱり睨まれてた印象がまだ強いよっ。
「ごめん、嬉しいんだけど、そういう風に見たことなくて・・・友達からでいいかな?」
私がそう言うと、田代くんは頷いた。
「もちろん、そう言ってもらえてうれしい」
あ・・・
私は思わず田代くんの顔に見入ってしまった。
柔らかく笑う田代くんの純粋な笑顔はとても素敵だって思ったんだ。