題 カーテン
カーテンの隙間から柔らかい光が差し込んで来た。
朝、目覚めた私はベッドに横たわって休日の光をただ受け止めていた。
優しい光のシャワーをたボーっと浴びていると、心が癒されて行く。
日差しが体に触れるとその場所がほんのり暖かく、気持ちが幸せに溢れてこぼれだす。
幸せ・・・。
幸せな1日。
会社にも行かなくていいし。
こうしてただ何もしなくていい時を過ごせることがたまらなく幸せに感じて。
何をしようかな。
そう思えることが心をウキウキと跳ねさせる。
今日、これからの時間、何をしようかと考えていると
楽しいアイデアが次々と沸いてきた。
好きなフレーバーティを仕入れに行こうかな。
それとも近所に出来た高級なカフェに行ってケーキの味を味見しに行こうかな。
考えているだけで頭の中がピンクのふわふわしたもので満たされていくようだ。
カーテンの隙間から見える青空も空も
いつも通勤の朝に見る時は暗い色に見えるのに、今日はきらきらパステルカラーに見える。
私はしばらくそうしてまどろみながら休日のプランを考えてから、うーんと伸びをした。
さぁ、今日というかけがえのない素敵な1日をはじめていこうか!!
涙の理由
私はキッとシンジを睨んだ。
「ねぇなんで私が怒ってるか分かってるの?!」
「え、知らないけど」
私の声に表情を変えずシンジは言葉を発する。
「何だっけ?」
くぅぅ、この男っっ
私は涙目でシンジを睨む。
「昨日、デート遅刻してきたでしょ?」
「あ、悪い悪い、寝過ごして」
「・・・その後、財布忘れてきたよね?」
「あ、まぁ、昨日は飛び起きてすぐ家でたからさ・・・」
「その上、すぐ帰ったよね?!用があるとか言って」
「用事あったからさ」
「へぇ、そーなの、遅刻して食事代おごらせてすぐ解散ってどんなデートなのよ」
一人夜に、駅前に放置された悲しみが蘇って、目尻にじわっと涙がにじんでくる。
彼氏は、私をチラッと見ると、バツが悪そうに頭をかいた。
「悪かったよ、そんなつもりじゃなかったんだ」
「そんなの全然言い訳にならない!!」
私の中の感情がヒートアップしてくる。
だって楽しみにしてたのに。
だからこそ、昨日の、デートがっかりしたんだから。
「今日さ、本当はもっと楽しいデートにしたかったんだ」
「は?」
穏やかな口調で話しかけるシンジに私は言葉の勢いを失う。
「今日、付き合って1年だろ?バイトずっと内緒で入れててさ、昨日はプレゼントも予約して、財布の位置もいつもと違う場所に入れてたし、ろくに寝ないで夜もバイトしてたから遅刻までして、悪かったよ、おまけにプレゼント受け取りに行けそうなの、昨日の夜しかなくて」
「え・・・覚えててくれてたの?」
私、絶対忘れられてると思ってたから、祝おうっていう気持ちもなかったのに。
今日会おうって彼から連絡来たんだ。
「覚えてる。というかマナが俺の携帯にちゃんと登録してる」
「あ、そっか、そうだったね・・・」
思わず笑みがこぼれる。
そんな私を優しい笑顔でみつめるシンジ。
「これ、受け取ってくれる?気にいるか分からないけど」
シンジがリボンで包まれたプレゼントを渡してくれる。
「開けてもいいの?」
私が問いかけると、静かに頷いた。
開けると、小さいダイヤモンドの可愛く繊細な雪の結晶のネックレスだった。
有名なブランドのだ。
「こんなの・・・こんなの・・・いらないよ」
私は急激に視界がゆがむのを感じながらシンジに訴えた。
予想した反応と違ったんだろう。シンジがうろたえる。
「え?!気に入らなかったか?」
「違う」
私はシンジに抱きついた。
暖かい、シンジのぬくもりに安心する。
「私はシンジがいてくれればプレゼントなんていらない。無理してくれなくてもいい」
私の言葉にシンジはハッと息をのむと、強く抱きしめ返して来た。
「そんなこと言っても大切なマナとの記念日だから、プレゼント、あげたかったんだ」
「シンジ・・・怒っちゃってごめん」
私はシンジに抱きしめられながら急激に罪悪感を感じていた。
「いいよ、俺が無理してたのが悪い。来年はもっと前から用意するから」
「もういいってば。だって私はそんなに高くない時計だよ?恥ずかしい・・・」
私がプレゼントの包みを差し出すと、シンジは受け取って微笑んだ。
「マナからもらえるなら何でもいいよ」
「私だって同じなんだからね」
涙はいつのまにか消えていた。
私は目の前の愛しい恋人の優しい気持ちを再確認して、笑顔でもう一度優しく抱きしめた。
題 ココロオドル
弾む心
そう、だって今日は彼氏とデートだから。
嬉しくてくるくる回ってると、道行く人にジロジロ見られた。
いーんだもん。
そんなことでこの私の心の高揚は止められない。
「こーら、またくるくる踊って、迷惑だろ」
頭に手のひらの感触がすると思ったら、後ろから彼氏が呆れたように私を見つめてた。
「だってぇ」
私はそう言いながら、彼氏の手の上に私の手を重ねる。
「デート嬉しかったから、ついつい体が動いちゃって」
「うん、知ってる。初デートの時踊ってる人がいると思って、近づいたらアカリでびっくりしたのなんの」
彼氏はなぜか遠い目をしている。
「ココロオドルと、ついつい体も動きたくならない?!幸せすぎて」
「うーん、理性が勝つかな、僕の場合。というか、ほとんどの人はそうだと思うけど」
「そうなんだ」
ちょっとガッカリ。
みんな、楽しい気持ちを体で表現できたらお互いにどんな気持ちかわかり会えると思うのに。
私が落ち込んだ様子なのをみて取った彼氏は取りなすように言葉を付け足してくれる。
「ま、まぁ、でも、人が、周りにいないとこなら踊ってもいいよ。僕しか見てない所なら」
「そうなの?迷惑じゃない?」
ついつい心の赴くまま踊っちゃってたけど、実はすごく迷惑がられてたのかな?
今更ながら不安になって、私は彼氏を見上げる。
「迷惑になるほど動いてないし、正直、僕の前で踊る分には可愛いと思う」
普通にストレートに言われて、私は表情を止めてしまう。
「え・・・あ・・」
「あれ?嬉しくなかった?アカリなら、絶対に喜んで踊りまくると思ったのに、止める準備してたのにな」
「カーイートー?」
おどけたような口調で言うカイトを軽くにらむ。
「そんな私、踊り狂ったりしないもん、それに・・・そーゆうのは反則だし」
「何が?」
面白そうな顔でカイトが尋ね返す。
「だから、そーゆーストレートな表現は喜びより照れの方がきちゃうから・・・」
私がもごもごいっていると、カイトは笑顔で不敵に私を見つめる。
「なるほどね」
「な、なによ?!なるほどって」
その態度がなんとなく面白くなくて聞き返すと、
「じゃあアカリの踊りを止めたい時は、大好きって沢山言えばいいわけだ」
「カイトっ、そういうのを手段にしちゃだめだと思うの・・・」
私はからかわれてるのはわかってるのに動揺を止められない。
「うん、でも手段じゃないから。大好きだよ、アカリ・・」
「カイト〜!もうっ!!恥ずかしい〜!!!」
私は動揺のあまり手を振り回してしまう。
ガコンっ
派手な音がして、こぶしはカイトの顎にヒットした。
「いたたっっ」
カイトがうずくまって、私はあわてて駆け寄る。
「大丈夫?!」
「うん・・・なんとか・・・いや、でも、アカリはストレートな表現だと暴れ出す、と、攻略はまだまだだな」
涙目のカイトに、私は何も言えなかった・・・。
題 束の間の休息
束の間、
ちょっとだけだから・・・
私は大きな木の下の涼しそうな木陰にチラッと目を向けるとそこへ吸い寄せられるように向かっていった。
午後の日差しが柔らかい。
まだ夏には早い、ちょうど涼しいひととき。
木陰で座っていると、不思議の国のアリスのことがふと頭をよぎった。
なんだろう
クスッと笑みがこぼれる。
木陰に座ってまどろむ私の前をうさぎが今チョッキを着て走っていったらびっくりして目が覚めるんだろうな・・・
そんなことを考えている間も、やさしい風の誘惑に抗えるわけもなく、私の瞼はどんどん下がっていく。
気持ちよいと何か思考を挟むヒマもないくらいあっという間に意識が夢の国に飛んでいってしまうんだろうな。
そう考えたのを最後に、私は意識を手放した。
ハッ
不意に目を覚ます。
「いけない!!」
辺りが暗いのが一番最初に見て取れて、私は覚醒直後勢いよく立っていた。
ああ、やってしまった・・・私のカバンに入っている図書館の本にチラと目をやる。
今日返そうと思ってたのに・・・。
仕方ない、また次に返そうか。
そう思いながらスカートをはたいて起き上がる。
今何時かな?
時計をみると、もう夜の七時だった。
なんてこと!!
時間を見て驚愕する。
束の間の休息のはずだったのに
それなのに、何時間もこんこんと眠りにふけってしまった。
それでも・・・
わたしは傍らにそびえ立つ心地よい日陰を作ってくれた木に軽く手を当てた。
それでも、とても有意義な時間だったと思う。
凄く疲れもとれたし、どうしようもなく気分もいいから。
「ありがとう」
優しい気持ちで木にお礼をいうと、私はカバンを手に持って足取りも軽く家へとハミングしながら帰宅したのだった。
題 夜の海
静かな夜の海
無償にきたくなって。
夜の電車を乗り継いできちゃった。
他の人から見たら、危ない人かな?
若い女性一人で夜の海なんて
でも、ただ、見に来たかったんだ。
普段から海をみるのは好きなんだけど、夜の波の音をただ、聞いていたかった。
癒やされたくて。
この波の音が大好きで、癒されるから。
私が大きな岩に座って静かに波音に聞き入っていると、携帯の着信音が鳴る。
出ると、焦った彼氏の声が聞こえてきた。
「カナ?!どうしたんだよ、急に夜の海行きたいってメールしてきて、本当に夜の海行ったのか?」
「うん、今夜の海にいるよ」
私がそう言うと、彼氏の声のトーンが何段階も上がった。
「何してんの、一人で行ったら危ないでしょ?!すぐ行くからどこにいるか教えて!!」
「う〜ん」
私は満月と波音を聴きながら一瞬迷った。
今日は一人でいたい気分なんだよなぁ。
彼氏にメールなんてするんじゃなかった。
「え?どこにいるの?聞こえない」
彼氏がたたみかけるように言ってくる。
心配してくれるのも分かるけどなぁ・・・。
「じゃあ約束して、私、静かにこの海を楽しみたいから、来ても話しないで静かにしててくれる?」
「・・・カナがそうしたいならいいよ」
若干不満気な彼氏。でも、良かった。納得してくれたみたい。
「分かったよ、それじゃあ、言うね・・・」
私は海岸の名前を告げる。
そして、電話を切ると、空を見上げる。
星と月が綺麗、そしてなんと言っても夜の海の魅力。
暗い中ざぁざぁと流れる波の音が私の心に響いて、癒しに癒される。
ああいったものの、彼氏が来たら無言ってわけにはいかないだろうし、今のうちにこの静かな時を楽しもうっと。
私は心を静かに落ち着けて、波音のヒーリング効果を堪能したのだった。