題 刹那
私はたかしが嫌いだった。
だっていつも意地悪ばかり言う。
全然優しくない。
小学校からそうだ。何を言っても否定されるし、うるさいって二言目には言われる。
私とたかしは犬猿の仲だって周りには言われてた。
それなのに、中学、高校と一緒になってしまったのは、なんの因果なのか・・・。
だけど、高校になった今、私もたかしももう小学生みたいないがみ合いはない。
お互いに、無関心だ。
ほぼ関わらない。私達が同じ中学高校だと知らない人に、その事実を伝えれば、ほぼ100%びっくりされるだろう。
私も別に今更関係を改善したいとも思わないし。
そんなある日、男女混合の球技大会が行事で開催された。
前日眠りが浅くてあまり寝てなかった私は朝から体調が悪かった。
もともと低血圧気味でふらふらしがちなんだ。
友人が私の体調を心配してくれるのを、大丈夫と笑顔で強がって、球技大会の試合に参加する。
男女混合の同じチームにはたかしがいた。
でも、私達はもちろん無視。
ただのクラスメートよりも関係値悪い気がする。
ともあれ、試合は始まり、私はふらふらとバレーボールの球を一生懸命目で追う。
でも、もう足がもたついて何が何だかわからなくなってきていた。
あ、もうこれ倒れるな・・・。
と思って倒れ込んだ刹那、誰かに抱きかかえられた。
「先生!夏木が倒れたので保健室連れていきます」
「あ、ああ、頼む・・・」
試合が中断され、補欠を呼ぶ声を後に、私はふわっという感覚共に、間近にたかしの顔を見ていた。
どうして・・・。
関わりたくなかったんじゃないの?
何で・・・。
私が物問いたげにたかしを見ていると、たかしは視線を落とした。
「大丈夫か?」
「あ、うん、ありがと・・・」
私は弱々しい声でお礼をいう。
「気にすんな。無理するなよな」
・・・これって本当にたかしなの?
別人みたい。
「小学校の時と全然態度違う・・・」
私が思わず声に出すと、たかしは困ったような顔をした。
「悪い、俺も子供だったから。反省してるよ」
「そっか・・・」
何となく後に続く言葉が思いつかなくて黙ってしまう。
「じゃあ、これからは普通に話そうよ」
私はたかしに言葉を続ける。
本当は小学校から、ずっとそうしたかった。
だってもともとたかしのこと嫌いじゃなかった。
「そうだな」
たかしは見たことのないような顔を私に向けた。
その優しい眼差しに落ち着かない気持ちになる。
それでも、嬉しい気持ちの方がずっと強くて・・・。私はフッと軽く目を閉じて、今後はたかしと良い友人になれればいいなと心から願っていた。
題 生きる意味
私って何で生きてるんだろう。
私は何度も考えていた疑問をまた頭に浮かべた。
休み時間
教室の窓に手をかけて、校庭で遊ぶ同級生を眺める。
みんな楽しそうにしてる。
でも本当に楽しいのかな
とふと感じる。みんなふりだけで、何も楽しくないんじゃないかなって。
付き合いで愛想笑いして、ただ、みんながするからするだけで、本心は人生にうんざりしているのかもしれない。
そうだとすると、そんな人生を毎日毎日繰り返していく地獄なんだ。
楽しみのない生活に何か意味があるんだろうか?
ないよね。
だって人間は種を存続させるために生きてるんだもの。
別に、楽しくするために生きているわけじゃない。
だったら、こうして生きていることは、種の存続に繋がっているんだから、やっぱり意味のあること?
楽しくなくても意味はあるんだろうか。
それは人一人にとって重荷じゃないんだろうか。
私は・・・楽しさがあった方が良い。
生きるのを仕方なくなんて、種の保存のためだなんて思いたくない。
それでもなぁ。
私はうつろな瞳で空を見上げた。
楽しいことが見つからないんだ。
楽しいことがわからないんだ。
私が今ここにいる意味がわからないんだ。
だから誰かに教えてほしい。
強く強く言ってほしい。
私に人生の楽しさを諭してほしい。
だって・・・私は楽しみのない人生には意味がないと思っているから。
善悪の判断って難しい。
私たち高校で三人グループ、ずっと仲良かった。
でも、美奈子と、真由は割と意見の食い違いが多かった。
私はその度に仲をとりなしてたんだけど、結局美奈子と、真由は、離れてしまった。
美奈子は友達が沢山いたから、その友達といたし、そこに、私の共通の友人もいたから、そのグループにいさせてもらってけど、真由はもともと気が強く敬遠されていたから、一人で席にいることが多かった。
もちろん気になったし、話しかけたこともあったけど、裏切り者って言われて、拒絶された。
そしたら、何日か後、私と、美奈子が先生に呼ばれた。
「二人とも、真由を仲間外れにしてるらしいな」
ドキッとした。
私にも罪悪感があったから、先生の言葉が痛かった。
美奈子は先生に言い返す。
「違います。私と真由、意見が合わなくて、喧嘩が多いから一緒にいなかっただけです。花は真由に話しかけたけど、無視されたみたいだし」
先生の横にいる真由はうつむいている。
「そうなのか?でも、せっかく同じクラスのクラスメートになったんだから、話し合って、言い合いにならないように、考えてみたらどうだ?」
「だって・・・」
美奈子が言いかけた言葉を先生が遮る。
「いいか、これはいじめだぞ」
私はびっくりして先生の話を聞いていた。
これはいじめになるのかな・・・。
「いじめてるつもりは・・・」
美奈子がそう言うのを先生が言葉を重ねる。
「現に真由は教室で1人だ。今日も先生に相談してきたんだぞ」
「えっ」
私と美奈子は驚いて真由を見た。
気の強い真由が相談してくるなんて驚いたからだ。
もしかして、真由はけっこう精神的にストレスを感じていたのかもしれない。
いつも平気な顔してたけど・・・。
「じゃあ、仲直りしよう。ちゃんと喧嘩しないように話し合おうよ」
美奈子が声を和らげていった。
真由は静かに頷いた。
「よかったよかった、それじゃあ、ちゃんと話し合うんだぞ」
先生はホッとしたような顔で言う。
職員室を出た私達は、並んで歩く。
「仲直りしたいなら直接いえばよかったじゃん」
美奈子が真由に言う。
「言えたら苦労してないよ」
「まぁ、確かに。じゃあルール決めようね。また喧嘩するのやだしね」
2人で話して行ってしまうのを見ていた私は1人考える。
私達がしたことはいじめだったのかな?
私はいじめだと思わなかったけど、見る人が見ると悪だったのかな?
だとしたら、私は知らずに罪を犯していたことになる・・・。
それがこんなにも恐ろしい・・・。
私は今後、もっと自分の行動を振り返って考える必要があるな、と震える身体と共に実感していた。
題 流れ星に願いを
「あ、流れ星!」
私は空を指さした。会社の帰り、私の家に来ていた彼氏が窓に立つ私の横に並ぶ。
「どれ?あ、今日そういえば流星群が流れるとか言ってたな。流れ星、沢山流れるかもな」
私の横でそう言う彼氏に、私は期待を込めて空を見る。
「本当に?!じゃあ、ちゃんと見てないと、願い叶えてもらいたいし!」
「願い?何?」
彼氏が顔を近づけて来て、私はドキッとする。
「ちょっ、ちょっと、近い・・・。えーっとね、まず、今やってる仕事のプロジェクトが成功するように、でしょ。次に今年のボーナスが割増になりますように・・・・あとは・・・」
「ちょっと・・・」
彼氏が私の願いごとを聞いていたかと思えば、私の肩に手を置いた。
「仕事のことばかりだね、僕のことは?」
「え・・・」
私は思わず彼氏の顔を見る。
「あ・・・。もちろん願い・・・たいよ」
「何?」
微笑みながら近づく彼氏に私は動揺する。
「近いってば・・・」
彼氏は私のおでこに、彼のおでこをくっつけた。
間近にある顔にドキドキが止まらない。
「教えてよ」
「え、と、ずっと一緒にいられますようにって・・・」
私がドギマギしながら言うと、彼氏は魅惑的な瞳で私を見つめた。
「僕も流れ星にその願いをかけるよ」
そのまま惹き寄せられるように視線が外せなくなる。
私は催眠術にかかっているように瞳を閉じて、優しい彼氏からのキスを受け止めた。
流れ星、見れてないけど・・・。
今この瞬間に流れていたら、二人の願いを叶えてください・・・。
題 ルール
「絶対におかしい!」
私はクルッと彼氏を振り返って言った。
「何が?」
と涼し気な顔の彼氏。
「だってそうでしょ?家に帰ったら絶対に5分以内にメールして、メール返信も10分以内って変じゃない?そんな事してる人周りにいないんだけど」
「いや、別にそれだけ俺達の愛が強いってことなんだからいいじゃん」
「私は、けっこう負担なんだけど。いつも返せないし、返せないとネチネチ責めるしさ・・・」
恨みがましい目で彼氏を見ると、彼氏は動じることなく微笑んだ。
「だって、それは夏美がルール破るからだろ?」
「そういうルールを強要するのはおかしいよっ、私、楽しくない」
私が感情的に言うと、彼氏は顔を歪めた。
「楽しくないの?俺はいつでも夏美と連絡取りたいんだけど」
「もちろん、私もだよ。でも、ルールにするのは違うじゃん。それを出来なかったら責めるのも違うと思う!このままじゃ、私、あなたと付き合っていくの無理だと思う」
私ははっきりと私の気持ちを伝えた。
ずっと責められるたびに考えていたことなんだ。
彼氏は、驚いたような顔をしている。
「えっ?別れるってこと?」
「うん、こんなにルール縛りされるなら、別れたい」
「分かった!!もう言わないよ。ルールはなしにしよう。もう、夏美にこれしてとか言わないから、別れるとか言わないで・・・」
彼氏は、哀願するような口調と顔で言う。
彼氏のこんな必死な顔、初めて見た。
私は呆然と見ていたけど、いたずら心がわいて来る。
「どうしよっかな〜」
「頼むよ、別れるなんて嫌だ!」
泣きそうな顔で頼む彼氏に、可哀想な気持ちになる。
「わかったよ。じゃあ、ルールで縛らないこと!ちゃんと必要なルールなら、お互い納得してから決めようね」
「ああ・・・、分かった」
彼氏は私の手をギュッと握る。
「ありがとう・・・」
「ううん、分かってくれたならいいんだ」
話し合いができて良かったと思った。
彼氏が私の言葉を聞いてくれて、私を思っていてくれたことを確認できて良かった。
またルール縛りをするかどうかはこれからの彼氏の行動を見ようかなって思うけど・・・。
とりあえず、今は彼氏の言葉を信じてみようと思った。