題 流れ星に願いを
「あ、流れ星!」
私は空を指さした。会社の帰り、私の家に来ていた彼氏が窓に立つ私の横に並ぶ。
「どれ?あ、今日そういえば流星群が流れるとか言ってたな。流れ星、沢山流れるかもな」
私の横でそう言う彼氏に、私は期待を込めて空を見る。
「本当に?!じゃあ、ちゃんと見てないと、願い叶えてもらいたいし!」
「願い?何?」
彼氏が顔を近づけて来て、私はドキッとする。
「ちょっ、ちょっと、近い・・・。えーっとね、まず、今やってる仕事のプロジェクトが成功するように、でしょ。次に今年のボーナスが割増になりますように・・・・あとは・・・」
「ちょっと・・・」
彼氏が私の願いごとを聞いていたかと思えば、私の肩に手を置いた。
「仕事のことばかりだね、僕のことは?」
「え・・・」
私は思わず彼氏の顔を見る。
「あ・・・。もちろん願い・・・たいよ」
「何?」
微笑みながら近づく彼氏に私は動揺する。
「近いってば・・・」
彼氏は私のおでこに、彼のおでこをくっつけた。
間近にある顔にドキドキが止まらない。
「教えてよ」
「え、と、ずっと一緒にいられますようにって・・・」
私がドギマギしながら言うと、彼氏は魅惑的な瞳で私を見つめた。
「僕も流れ星にその願いをかけるよ」
そのまま惹き寄せられるように視線が外せなくなる。
私は催眠術にかかっているように瞳を閉じて、優しい彼氏からのキスを受け止めた。
流れ星、見れてないけど・・・。
今この瞬間に流れていたら、二人の願いを叶えてください・・・。
題 ルール
「絶対におかしい!」
私はクルッと彼氏を振り返って言った。
「何が?」
と涼し気な顔の彼氏。
「だってそうでしょ?家に帰ったら絶対に5分以内にメールして、メール返信も10分以内って変じゃない?そんな事してる人周りにいないんだけど」
「いや、別にそれだけ俺達の愛が強いってことなんだからいいじゃん」
「私は、けっこう負担なんだけど。いつも返せないし、返せないとネチネチ責めるしさ・・・」
恨みがましい目で彼氏を見ると、彼氏は動じることなく微笑んだ。
「だって、それは夏美がルール破るからだろ?」
「そういうルールを強要するのはおかしいよっ、私、楽しくない」
私が感情的に言うと、彼氏は顔を歪めた。
「楽しくないの?俺はいつでも夏美と連絡取りたいんだけど」
「もちろん、私もだよ。でも、ルールにするのは違うじゃん。それを出来なかったら責めるのも違うと思う!このままじゃ、私、あなたと付き合っていくの無理だと思う」
私ははっきりと私の気持ちを伝えた。
ずっと責められるたびに考えていたことなんだ。
彼氏は、驚いたような顔をしている。
「えっ?別れるってこと?」
「うん、こんなにルール縛りされるなら、別れたい」
「分かった!!もう言わないよ。ルールはなしにしよう。もう、夏美にこれしてとか言わないから、別れるとか言わないで・・・」
彼氏は、哀願するような口調と顔で言う。
彼氏のこんな必死な顔、初めて見た。
私は呆然と見ていたけど、いたずら心がわいて来る。
「どうしよっかな〜」
「頼むよ、別れるなんて嫌だ!」
泣きそうな顔で頼む彼氏に、可哀想な気持ちになる。
「わかったよ。じゃあ、ルールで縛らないこと!ちゃんと必要なルールなら、お互い納得してから決めようね」
「ああ・・・、分かった」
彼氏は私の手をギュッと握る。
「ありがとう・・・」
「ううん、分かってくれたならいいんだ」
話し合いができて良かったと思った。
彼氏が私の言葉を聞いてくれて、私を思っていてくれたことを確認できて良かった。
またルール縛りをするかどうかはこれからの彼氏の行動を見ようかなって思うけど・・・。
とりあえず、今は彼氏の言葉を信じてみようと思った。
題 今日の心模様
朝、好きな人に会えたんだ。
通学路で会って、おはようって挨拶したら、おはようって言ってくれた。
そこまで仲良くなってないし、友達と話してたから、そのまま登校しちゃったけど・・・。
凄くいい気持ちで教室に入ったら、先生が教室の前で待ち構えてたんだ。
職員室に連れて行かれて、数学のテストがクラスで最低点だって言われた。
・・・仕方ない。
だってあの日、前日に好きな人が他の女子と仲良くしてるの見ちゃったんだもの。
後でただの友達ってわかったけど、そのせいで、眠れないままテスト受けたんだ。
点数取れるわけない・・・半分夢の中だったんだから。
そんなわけで、先生に補習を言い渡されて落ち込んで教室に戻ると、私の席に友達が座ってた。
「呼び出しくらってたの?」
友人に言われて、私はヘコミながら頷く。
「うん、補習だって・・・」
「そっかぁ、でも、落ち込まないで、こないだ言ってたコンサートのチケット取れたから」
「えっ!本当?!」
私の大好きな歌手のコンサートで、ほぼ取れたことがない。
私と友人で頑張って連日取ってたんだけど、私の方は全然ダメだった。
「ありがとっ!神ッ!!」
私が友人に抱きつくと、
「ちょっとやめてよ、暑苦しい・・・」
と言われる。
でも、そんなこと気にならない、最高の一日!
そして、放課後地獄の補習を受けて帰宅途中、今日はどんな一日だったんだろう・・・と振り返る。
なんだか、上がったり下がったり疲れたなぁ・・・
今日の心模様を一言で現すとジェットコースター、かな?
題 たとえまちがいだったとしても
「好き」
私は隣の席の優吾に言う。
「う〜ん、分かった分かった」
優吾は私の言葉を聞いているのかどうなのか、自分の席で、ノートをカバンから取り出した。
「昨日宿題できてなかったから、今しなきゃ」
優吾が教科書を開いて勉強しようとしている所を私はトゲのある言葉で重ねて話す。
「好きだってば」
「分かってる」
優吾はこちらを見もせずに、ノートの宿題に一心不乱に取り組んでいる。
「ちょっと、ひどすぎない?」
私の言葉に、優吾は面倒そうに返答した。
「いや、だって何回言うんだよ?俺は今宿題やってるの目に入らない?今日だけでその言葉十回以上聞いたんだけど」
「だってそれは・・・好きだから、伝えたいんだもん」
私の言葉に、優吾はこちらをちらっと見た。
「本当に俺が好きなら今放っといてくれる?」
優吾の態度と言葉に、私は少しへこんだ。
「・・・ねえ」
「・・・何?」
少しして、私は優吾に話しかける。
少し間があって、優吾からの返答がある。
「優吾は私のこと好きになってくれないの?こんなに毎日言ってるんだから」
「言われすぎると逆効果だって聞いたことない?」
優吾は手を止めると、私の方を見た。
「でも、どうしたら好きになってくれるのかわからないんだもん」
私は、戸惑ってしまって優吾に打ち明ける。
好きな人に打ち明けることでもない気がするけど。
「しつこくしなきゃいいんだよ?」
優吾は再びノートへと顔を戻した。
「そしたら、万が一でも好きになってくれる?」
「まあ、万が一っていうなら、可能性あるよ。しつこくしないなら」
上の空のような優吾の言葉に、私の気持ちは舞い上がる。
「ありがとう!私、頑張るね!!」
私が弾んだ声で優吾に笑いかけると、優吾はギョッとした顔で私の顔を見る。
「え、何を頑張るんだよ、万一って話だろ・・・」
「だめだよ、間違いだったって言っても許さないから!私、これからしつこくしないから、私を好きになってね!」
「もうしつこいじゃん・・・」
何か優吾が言っている気がするけど私の耳には入ってこない。
私は明日からどうやってしつこくしないようにしようか、頭を目まぐるしく働かせていた。
題 雫
教室の授業中、こぼれる雨のしずくを窓から見つめていた私。
ただ、途切れることなくこぼれていく透明なしずくから、なんだか目が離せない。
幾度も溜まっては限界を迎えて流れて行っては、新しい雫が形成されていく。
「瀬田」
横の席に並んでいる虹川が声をかけてきた。
「ん?」
横を見ると、虹川の後ろに怖い顔をしている先生が腕組みをして立っている。
あ、やばい・・・。
「どこ見てるんだ?」
先生の声に、私は首すくめて小声で返事をする。
「すみません・・・」
先生が行ってしまうと、虹川が話しかけてくる。
「どうしたんだよ?何見てたの?」
「え?雨のしずくだよ。見てると面白くない?」
「そうなのか?」
虹川は私が窓へと目を移すのを見て、一緒に目を移動させる。
締め切られた窓の外。
今は梅雨の時期で、ザアザアという音と共に雨の筋が沢山窓に流れていた。
「何か、しずくがいつ落ちるかとか考えて見てると面白いかもな」
虹川の言葉に私も頷く。
「うん、ひたすら作業してるのとか、ありとかをジッと眺めているのとかやめられない時あるじゃない?それに似てるんだよね〜」
「なるほどな〜」
虹川が納得したように頷く。
「ヒマ潰しにはなるのかもな。授業中、暇つぶししてちゃだめだけどな」
笑う虹川に、私もそうだけどね、と笑う。
そこへ・・・
「虹川!瀬田!」
教室に響く大声に、恐る恐る横を見ると、そこには、さっきよりさらに顔をしかめた先生が腕組みして私達を見下ろしている。
「二人とも、放課後反省文書いて持って来い!」
先生に怒られて、私達ははい・・・と返事をする。
「ごめんね」
口パクで虹川に謝る。
手でオッケーマークを作ってくれる虹川。
そんな虹川に罪悪感を感じる私。
横で流れ続ける雫を見たい欲求と戦いながら、その後は一生懸命授業を聞いていたのだった。
それでも、放課後は反省文が待っている・・・。
もう雫を見るのはやめないと。
でも、何となく引き寄せられてしまうんだよね。
私は今年の梅雨はあまり降水量が多くないことを祈っていた。