題 沈む夕日
今日も沈んでいく
丸い大きな優しい光
ここで見ているとどこか物悲しくて・・・
でも、その物悲しさがまたいいなと感じる
私は今日も砂浜に座って夕日を見てる
静かに空の色が変わっていく
オレンジに、淡い紫に、水色に藍色に青に黄色が混ざってあらゆる色が空に広がっていく
まるで絵の具のパレットみたいに広がっていく色に見とれる
暖かい気候になって、風がほんのり頬を撫でる
こんなに素敵な光景は何度でも見に来てしまう
毎回唯一無二の色遣い
他に同じ彩り、景色を見ることは出来ないから
私は自然のキャンバスが見たくて、きっと明日もここで沈む夕日を見ているだろう
題 君の目を見つめると
君って催眠術を使えるんじゃないかな?
君に何か頼まれると絶対に逆らえない。
「あ、いたいた!松野くん」
今考えていた当の本人が駆けて僕のもとへやってくる。
「探したよ、悪いけど、今日放課後補習で忙しいんだ。代わりにいつものファッション雑誌買ってくれる?本屋寄る時間ないから。はい、これお金!」
「・・・分かった。買っとくよ」
「ありがとう、明日渡して」
佐々木さんは笑顔でポンッと僕の肩を叩くと去っていく。
こんなことあっていいのか?
佐々木さんが去った1分後にそんな考えに至る。
頼まれた直後は、何の疑問もなかったのに。
そもそも僕って人の頼みごととか聞かないほうだよな。
教室に戻ると、友達の晴樹の席に行く。
「やっぱりおかしいんだよなぁ」
「え?佐々木のこと?また何か頼まれたの?」
何度も違和感について話しているから、もう晴樹も何の事がわかっている。
「だって、僕、もともとそんなに人の頼みをはいはい聞くような性格じゃないだろ?」
「まあ、でも、前も言ったけど、佐々木の事何でも願いを叶えたいくらい好きってことじゃないの?」
「違うっ!」
僕は慌てて否定する。
「好きだからって相手の言う事何でも聞いたりしない」
「うーん、じゃあなんだろうなぁ・・・もう本人に聞けば?」
晴樹は投げやりな様子で言う。
「本人に聞いて話してくれる訳無いだろ」
僕はそう言ったものの、このまま何もしないでいても解決しないと思ったので、昼休みに佐々木さんに話があると言って中庭まで連れて行くことにした。
黙ってついてきた佐々木さんは、なに?と聞いていた。
「あのさ、僕、最近佐々木さんの頼み沢山聞いてる気がするけど、どうして?」
「えっ?」
佐々木さんがびっくりしたような顔で問い返す。確かに、いきなり聞かれても困るよな・・・。
次にどう切り出そうと思っていると、佐々木さんが口を開いた。
「何でそのこと気づいたの?」
「は?」
佐々木さんの言葉に、今度は僕がびっくりした顔をする。
「あーあ、せっかく催眠術成功者一人目だったのに!松野くん以外誰も効かないの。よっぽど効きやすいんだねっ」
ニコッと笑いかける佐々木さん。
「な、何してくれてるんだよっ、人権侵害だぞ、早く戻せよ!!」
僕の言葉に佐々木さんは頷く。
「分かった分かった。じゃあ、私の目を見て、解いてあげるから」
その言葉に俺は佐々木さんの目を見た。
その瞬間耳に、
「あなたは今までの会話を忘れます。あなたは私の目を見ると私の願いを何でも聞いてくれます。その事に疑問を抱きませんっと。よしっ重ねがけ完了!」
という声が意識の遠のきと共に聞こえてきた。
そして僕は・・・。
「あれ?また佐々木さんのお願い聞いてるの?やめるんじゃなかった?」
晴樹が、佐々木さんに頼まれたノートを写している僕にそう話しかけてくる。
僕は、晴樹に返答した。
「え?何で?佐々木さんのお願いだから聞くに決まってるじゃん」
題 それでいい
私を好きって言ってくれる人がいる。
「だから、好きじゃないんだって」
今日も私は冷たい顔であなたに言う。
「そんな事言わないで、考えてくれない?少しでいいから」
食い下がってくる相手。
どうして?どうしてこんなにしつこいんだろう。
嫌って言ったら普通引かない?
私なら引くけどな。
理解できない、出来ないけど・・・。
「無理。好きじゃない。全然好きじゃないから、考える余地もない」
私は無表情な顔を作る。
あなたは引きつった顔で私を見つめた。
懇願するような表情で。
「君の中には、僕への好意は少しもないの?」
「うん、ごめんね、少しもないんだ」
「これからも好きになる可能性はない?」
しつこいってば・・・。
「ないよ、だからあきらめて」
・・・
少しの沈黙の後、彼は悲しそうな苦笑を浮かべた。
「じゃあ仕方ないね。こんなに言っても無理なら諦めるよ」
「うん・・・そうしてくれる?」
彼が去った後、私は力が抜けたようにへたりこむ。
本当は好きになる余地、あった。
好感だってある。
でもまだ間に合うから。
そんなに好きじゃないから。
私の妹が彼を見て一目惚れしたから。
毎日どれだけ好きか私に話すから。
幸せそうだから・・・。
私はまだ間に合う。
そこまでじゃないもん。
私はこの心の喪失感に似た感情を無理やり無視した。
大丈夫、これでいい。
これでいいんだから・・・。
それでも、しばらくその何かを失ったような気持ちは抜けてくれなかった。
題 1つだけ
1つだけ来世に持っていけるとしたら何をもっていくかな?
私は家でボーッとしながら考えていた。
でも、一瞬で結論が出る。
そう、それはお兄ちゃん!
「幸」
私は満面の笑みで振り向くとお兄ちゃんの腕に飛びついた。
「私がずっと独占したいな〜」
「幸ってば、何言ってるの」
苦笑するお兄ちゃん。
だって好きなんだもん。
恋愛ってわけじゃないけど、誰にも取られたくないって思ってしまう。
だから、もし私が一つだけ来世へ連れていけるならお兄ちゃん。
来世では、どんな関係で産まれるか悩むところだけど、とりあえず、ずっと一緒にいたいな!
題 大切なもの
大事なものってなんだろう・・・
私には大切なものがない。
あまり興味がない。だって物は壊れていくし、人は離れたり死んでいく。
だから、関わらないほうがいいの。
「ねえ」
絶対に関わらないほうがいいんだから。
「ねえってば!」
私は横から聞こえてくる声を幻聴だと思うことにした。
「聞こえてるよね?おはよ〜」
底抜けに明るい声を上げる同じクラスの金森さん。
一人でいる私に異様に毎回構ってくる。
一人でいるんだから、何か理由があるんじゃないかって敬遠しても良さそうなものなのに・・・。
「何か用?」
あ、予想以上に冷たい声が出ちゃった・・・。
「あ、またそんな冷たいこと言って〜。今日小テストあるでしょ?対策プリント菜奈ちゃんはやってきたかな〜って」
厚かましくも菜奈ちゃん呼び。
「・・・やってきたけど」
時間だけは有り余るほどあるんだ。別に誰と交流してるわけじゃないし。
宿題は、きちんと毎日やっていた。
「あ、じゃあ、答え合わせさせて?」
そう言うと、金森さんは、自分のプリントを私の机の上に置いた。
私は躊躇したけど、断るとしつこそうだから、渋々自分のプリントを取り出して机に置く。
「わぁ、綺麗な字だね!」
大げさに褒める金森さん。いつもそうだ。金森さんは、私のこと過剰に褒める。
やめてほしいなぁ。そんなんじゃないんだから。
私が黙っているのも気にせず、金森さんはどんどん小テストのチェックをしていく。
「わ、大体合ってるみたい。良かった〜!菜奈ちゃんがいてくれて助かっちゃった。あの先生当ててくるでしょ?不安で・・・」
私はそんな金森さんの言葉を聞いてるうちにどうしても聞きたくなってしまう。
「・・・どうして?」
「ん?なに?」
金森さんの問いにずっと心の中でわだかまっていた思いを吐き出す。
「何で私なの?金森さんは沢山友達いるでしょ?わざわざ私に聞かなくてもいいじゃない」
何となく責めたような口調になっていた。実際に心のどこかで責めていたのかもしれない。
「そんなの決まってるじゃない。菜奈ちゃんともっと仲良くなりたいからだよ」
金森さんが当然のような口調で私に言う。
そのド直球な言葉に、私は何かブワッと照れと嬉しさと当惑のような物が込み上げてくるのを感じる。
初めての感覚だった。
「あ・・・あの・・・」
私が何か言おうとすると、チャイムが鳴る。
「あ、席戻らなきゃ。私、菜奈ちゃんのこと大切な友達だと思ってるから!」
颯爽と去っていく金森さん。
私は呆然と、自分の気持ちが動いているのをただ感じていた。
大切な友達・・・
大切な友達・・・
何度もその言葉を心で反芻するのが止まらない。
私の認識は変わってしまいそうだ。
何もいらないと思っていたのに・・・。
私は自分の心に金森さんと仲良くなりたいという微かな欲が芽生えるのを感じていた・・・。