題 My Heart
私はずっとずっと恋なんてしないと思ってた。
だって、誰にも心を動かされない。
好きな人?そんな話になっても、私は分からないから、いないって答えてたし。
私の心臓には欠陥があるんじゃないかと思った程だ。
情緒がない、感覚が鈍い、とか・・・。
友人にはたまに言われる。何を考えてるのか分からない、と。
怒っているのか、悲しんでるのか、喜んでるのか見えないって。
そうだよね。だって私も自分の感情が分からないから。
そう言われても仕方ないと思ってた。
でも、その図書館であなたに会ったんだ。
優しい微笑み。
向かいに座った時に目があって、視線を外せなくなった私に、イギリスとのハーフだと話したあなた。
金髪がきれいで、瞳が淡い緑で、日本語が凄くうまくて。
あなたの雰囲気が好きだと思った。
上手く説明できないけど、一目見て、この人がいいって感じてしまったの。
他のどんな芸能人にも何も感じたことないのに、その人にだけ、私の心が動いているのを強く実感したんだ。
会いたくて、図書館に通い詰めた。
私の行動と衝動を私自身が理解できてなかった。
でも、幸運なことに、本当に奇跡的に、あなたは、私を好きになってくれた。
私の告白を受け入れてくれた。
その瞬間、もう、他には何もいらないと思った。
そんな強い想いと共に、あなたを愛してる、と強く実感した。
「大好きだよ、愛してるよ」
何回伝えても足りない。
しかもあなたは微笑んで僕もだよって言ってくれる。
その言葉に、天にも昇る気持ち。
私の世界は変わった。
あなたが現れてから私の中心はあなたになってしまった。
あなたにしか特別な鼓動を早めない心。
どうして私は感情を感じないのかって、鈍いのかってずっと思ってた。
でも、あなたにあってはっきり分かったよ。
私はあなたに会うために、あなたに会って本当の愛を知るためにいままで気持ちが動かなかったんだって。
私は今日もあなたと図書館で待ち合わせをする。
あなたに会うと確かに高鳴る私の心臓が、あなただけが大切だということを私に教えてくれるんだ。
題 ないものねだり
「私、美緒みたいだったら良かったな」
私は頭が良くて、いつもしっかりしている友達を見て、ふとポツリと言った。
「え?そうなの?」
美緒は意外そうな顔で私の顔を見る。
「可奈子は可愛いじゃない、私は可愛く生まれたかったけど」
「可愛くても、いい大学いけるわけじゃないもん。私、大学行って、資格取って働きたいんだから。でも、全然勉強しても頭に入らないよ」
私の呟きを聞いて、可奈子が不思議そうに問いかけてくる。
「芸能界とか目指したら可奈子なら人気になるんじゃない?それに、可愛いとみんな優しいでしょ?いいことばかりに見えるんだけどな」
美緒の言葉に、私は激しく首を振った。
「私は目立ちたくないの!それに、ちゃんと自分の頭で
勉強して、学力で就職したいの。みんな優しいっていうけど、私は美緒はみんなに尊敬されていいなぁ、と思ってるんだからね!」
美緒は私の言葉に考え込むように顎に手を当てた。
「うーん、尊敬ね。そうね、勉強で困ったことにはならないけど、期待されるのも結構プレッシャーなんだよ」
「そうなの?」
私は、美緒がプレッシャーに感じてるなんて、全然見えなくて、びっくりして、聞き返す。
「うん。ちょっと点数が下がると、親や教師にいろいろ言われるし、将来は安泰だ、って好き勝手に未来のこと言われるし。将来なんて分からないのにね」
そっか、頭が良くなるとそれが当然だから、頑張って維持しなきゃいけないんだ・・・。
確かに、美緒は大変そうだ。
私はないものねだりをしていたのかな?
「美緒も大変なんだね、知らなかった。私は私なりに努力するしかないね。美緒みたいにはなれなくても、頑張って学力あげてみるよ」
私の言葉に美緒は微笑む。
「可奈子のそういうとこ、私好きだな。今日勉強会する?」
美緒の言葉に私も笑顔になる。
「いいの?やった!やるやる。よーし頑張るぞ!」
私の出来ることには限りがあるのかもしれない。
それでも、ないものねだりかもしれないけど、少しずつでも、美緒に近づければ嬉しいな。
そうして、いつか、自分に出来ることが増えたら、もう少しだけ自分を好きになれる気がするから。
題 好きじゃないのに
席替えの日、私は自分のくじで指定された席に着くと隣を見てため息をついた。
隣のたくまくんも私を見て同時にため息をつく。
2人の声が重なる。
「また隣の席か」
たくまくん自体に罪はない。話してて楽しいし、別に隣でもいいんだけど・・・。
「おー不正してんじゃねえよ!ラブラブだからって」
「また2人隣なの?そう言えばクラスもずっと一緒らしいよ?」
「え?やばくない?」
そんな声があちこちから聞こえてくる。
「あー、やだっ!」
私がそう言って耳を塞ぐと、たくまくんも顔をしかめて頷いた。
「最悪だよな」
なぜか私とたくまくんは同じクラス、隣の席になることが多い。
さっきも言ったけど、たくまくん自体はいい人だ。
でも・・・私もたくまくんも好きな人がそれぞれいる。
それなのに、完全にクラスでカップル扱いで・・・。
たくまくんの好きな人は違うクラスだからまだいいけど、私はからかわれてる姿を好きな人に見られている。
「神様ってひどいよね?お互いなんもないんだからわざわざ一緒にしてくれなくていいのに」
私が涙目でたくまくんを見上げると、たくまくんは頷いた。
「そうだよな、俺達、本当になんなんだろうな?意味がわからない」
そんな風に愚痴ったのは何回目だろうか。
そんな風にただ話してても、イチャイチャするなよーとガヤが飛ぶ。
チラッと好きな人を見る。いつも、私が軽口叩かれても興味なさそうにして、私のことからかったことない人。
静かな雰囲気の人だけど、優しい人だ。
友達を助けたり、勉強教えたりしてるのをよく見る。
今も、軽口に気を取られず何かノートに書いている。
軽口を叩かないでいてくれてホッとした。
やっぱり、好きだなぁと思う。毎日毎日見る度に好きになっている。
「好きな人が同じクラスっていいよな」
たくまくんが私の視線を追って小さな声で言う。
「まーね、でも、からかわれてるの見られてるから、そうでもないよ。好きな人見られるのは凄い嬉しいけど!」
「そっか・・・俺はほぼ会えないから、会えるのはうらやましいな・・・」
たくまくんの好きな人は先輩だ。部活などが被ってはないから会えた日はラッキーらしい。
「見ろよ、また2人、こそこそ内緒話してるぞ、本当熱いよなー!」
「もー違うって言ってるでしょ!?」
「お前らいい加減にしろっての!違うから」
私とたくまくんの声が重なる。
一緒に、発言したことでまた息ぴったり、と歓声が起こる。
私は疲れ切ってはぁ~と机に突っ伏した。
好きじゃないのに、でもこの変なシンクロで全然信じてもらえないよ・・・。
私は何にすがっていいかわからず、天を゙見上げて祈る。
どうか、このたくまくんとのシンクロを解除して、わたしの好きな人と仲良くさせてください!
空からの返答は当然ない。
私は解決法のないこの悩みに、もう一度ため息をついた。
題 ところにより雨
「あ、ゆうちゃん、今日傘持っていきなよ」
お母さんがそう言う。
「あ、うん・・・」
私は空を見上げた。
快晴だ。雲一つない。
でも、お母さんの言う事は聞いておくに越したことはない。
お気に入りのクローバーの柄の傘を持って、「行ってきま〜す!」と学校へ向かう。
「優美、今日晴れだよ?」
と途中何人かの友達に指摘されたり、不思議そうな顔をされる。
「いーの、お母さんが持っていけって言ったんだから」
私はそう言われる度にそう言い返す。
そうすると、呆れたような顔をされたり、言う事聞くことないじゃん!と言われるけど・・・。
放課後
天気予報では、晴れ、降水確率10%だったにも関わらず、土砂降りになった。
みんな傘を持ってきていないものだから、呆然として空を見上げている。
置き傘をしていた少数の人と共に、私は優雅にお気に入りの傘を広げて帰宅する。
お母さんは、いつも雨になる日を分かってる。
なんでなの?って聞くけど、自分でもなんで分かるかわからないんだって。
でも、100%の的中率で、お母さんが雨になるって言った日は雨になる。
多分降水確率が0%だとしても、お母さんが傘持っていったら?という日は雨になるんじゃないかな?
だから、私にとっては、お母さんの雨予報が絶対で、お母さんが言った場所は雨って決まってるんだ。
それ以外に何か不思議な力があるわけじゃないけど、お母さんのその力、私はちょっと誇らしいんだ。
私はクローバーの傘をクルクル回しながら、弾む足取りで家の方角へと帰っていった。
題 特別な存在
私はいつも守られてる気がする。
「かなちゃん」
「うん?」
私は幼稚園からの幼馴染の湊くんを見た。
「今日は英語の宿題やった?小テスト出るよ。後は、書道道具が必要だけど持った?」
「・・・うん、テスト対策やったし、書道道具持ったよ」
「そっか、安心」
ホッとしたようにニコッと笑いかける湊くんに私は言う。
「あのさ、私もう中学2年なんだけど。それに、湊くん違うクラスなのになんで私のクラスの宿題知ってるの?」
毎日私の世話をやいてくれる湊くん。忘れてた時とか、頼りになるけど、まるで母親のように細かく心配される。
よっぽど私が頼りないのかな?って思ってしまう。
「だって、中学になっても、忘れ物したら困るでしょ?かなちゃんはそんなこと気にしないで。ちゃんと僕がチェックするから」
私の疑問には全く答えずに港くんはニコニコと楽しそうだ。
うーん、そんなに私のこと心配してくれなくてもいいのにな。
伝えようとしても、上手く伝えられないな。
はぁーとため息をつくと、私は湊くんと並んで歩き出す。
「高橋〜」
学校に到着した時、同じ委員会の山中くんがやってくる。
「あ、今日朝美化点検だっけ?」
朝校舎にゴミが落ちてないか確認する当番がある。
「そうそう、行こう」
山中くんは、私を急かして、腕をつかもうとする。
そこへ高速で湊くんが私と高橋くんの間に割り込んでくる。
「見てわかんない?かなちゃん、まだ登校してきてカバンも置いてないんだけど。ちょっとくらい待てないの?」
湊くんの顔が怖い・・・。
私に話しかけてきた人はみんな湊くんを怖がるけど、その理由わかるよ。
私も今の湊くん、別人みたいに怖いと思ってしまうし。
「あ、悪い、じゃあ、先に一階から確認するから、荷物置いたら3階から確認してくれる?」
「あ、ごめんね・・・」
私が謝ると、山中くんは、大丈夫!と言うと、湊くんを見て怯えたように去っていった。
「かなちゃんが謝ることないのに・・・」
横の湊くんは不満そうに言う。
「ねえ、湊くん、なんで他の人にあんなに冷たいの?私には優しくしてくれるじゃない」
私はさっきみたいな湊くんをあまり見たくなくて話す。
「え?それは、当然でしょ?かなちゃんが特別だからだよ」
「特別?幼馴染だから?」
私がそう言うと、湊くんははぁーとため息をつく。
「・・・僕たちって他にも幼馴染いるでしょ?でも、僕はかなちゃんだけに特別なんだけど?」
?
そう言われても、分からない、あ・・・
「私のこと、頼りないって思ってるから?」
「え?なんて?」
私の言葉に湊くんは心底驚いた顔をする。
「私が頼りないから何とかしたいと思って世話焼いてくれてるの?」
「・・・ねぇ、かなちゃんって鈍感だよね」
湊くんの言葉にどうも違うらしいと予測はついた。
「いいんだ、かなちゃんが分かるまで僕は続けるつもりだから。早く気づいてね」
と湊くんは、私の顔を見て言う。
今の私には全く予測がつかない。
ただわかるのは湊くんが私を守ってくれてて、世話をやいてくれることだけ。
この特別扱いの意味はいつかわかる日がくるんだろうか?