題 絆
ずっとあなたと一緒だった
だからこれからも一緒だと思ってたのに
「俺、彼女出来たんだ」
笑顔で言うあなた。幼馴染としてそばにいた私の気持ちには気づかず、あなたは他の子を選んだんだね。
「そっ・・・か。そーなんだ。先越されたなぁ〜」
私は精一杯笑顔を作る。引きつった笑顔なんだろうなぁ・・・。
「大丈夫、奈美もすぐ出来るよ」
考えてもいないんでしょ。私があなたを好きだったこと。
これまでの絆ってなんだったんだろう。
沢山過ごしてきても、恋人が出来たら一番大事なのはその子になってしまう。
「私は・・・当分いいよ、でも、裕貴とも遊べなくなるね、彼女が出来たら」
私は思わず当てつけがましいことを言ってしまう。
「え?何で?」
裕貴の返答に私は当惑した。
「え?逆に彼女が嫌でしょ、他の女の子と遊ぶとか」
私は当然の返答をした。私だって、私の彼氏が他の女の子と遊ぶなんて嫌だ。
「ええ〜そうかな〜?そういう事言う彼女なら俺、別れるよ」
「は?」
私は思わず聞き返す。そんな簡単に別れられるくらいな気持ちなの?
「あのさ、念の為に聞くけど、どういう経緯で付き合ったの?」
「え?告白されて、俺は別に好きじゃないけどって言ったらお試しでいいから付き合ってって・・・」
最低だ・・・。
「ちょっと、好きでもないに付き合うの?おかしくない?」
「いや〜、俺も断ったんだけど、押されに押されてさ。でもなー。奈美と遊べなくなるのは嫌だな。やっぱ明日断るわ。女子ではお前と遊ぶのが一番楽しいし、今んとこ彼女とかいらないや」
「あ、そ、そう・・・」
私はさり気なく言ったけど、内心はドキドキと嬉しさが止まらなかった。
この分じゃ、恋愛感情とかまだ無縁なんだろう。
それでも、もう他の子に取られるのは嫌だった。
だから・・・
「覚悟してよね」
私が裕貴にそう言うと、裕貴は、え?と首を傾げる。
「なんでもな〜い」
そう言いながら明日から裕貴にアプローチ頑張る、と決意したのだった。
題 たまには
「ねえ、たまにはこっちの道から帰ろーよ」
デートの帰り道。私はいつも帰る道とは違う道を指さした。
だってまだ離れがたい。少しでも遠回りしたいから。
「えー、何でだよ」
私の気持ちを汲んでくれることもなく、彼氏は不満気な声を出す。
「いいじゃない、たまには、ねっ?」
私は強引に彼氏の腕に自分の腕を絡めると、遠回りの道にグイグイ引っ張っていった。
「ちょっと、引っ張るなよ」
彼氏はブツブツいいながら、私に引っ張られるままだ。
少し行くと、自販機があった。私が好きなキャラのコラボのイラストが書かれたジュースが売っている。
「ああっ、これっ!!!」
今店頭では売り切れ状態だから、私は興奮して自販機に貼り付く。
彼氏がゆっくりと自販機に近づいて来た。
「これか、菜乃花好きだよな。このキャラ」
「うんっ、好きどころか愛してるよ!!もーここで会えたなら死んでもいいっ!!」
私が興奮しながら財布を取り出しているのを見て彼氏は呆れ顔。
「死んでもいいって・・・大げさだな」
「あるだけ買っちゃお〜っと♪」
「おいっ、そんなに買っても持てないだろ」
自販機のジュースを買い占めようとする私を彼氏は必死に止めて、渋々3本で我慢する。
3本のペットボトルを抱えてニコニコした顔で私は彼氏に笑いかけた。
「やっぱり、たまには違う道もいいよねっ」
私が、ニヤニヤしてコラボジュースのイラストを見ていると、彼氏がボソッと言う。
「俺よりそのキャラの方が好きみたいだな」
私はその声を聞き逃さなかった。
「もしかしてヤキモチ?可愛い〜」
彼氏の言葉に胸がキュンとする。
「違うって。そういうつもりじゃ・・・」
彼の否定の言葉を遮るように、私は彼のホッペにキスをする。
「大丈夫、あなたがいつも一番好きだから。心配しないで」
私の笑顔に、かぁぁと顔を赤くする彼氏。
「心配なんかしてないしっ」
そう言いながらも、私のペットボトルを3本とも回収して自分で抱える。
「あ、あああっ」
私が悲痛な声を上げると、彼氏は私を見て拗ねたように言った。
「これは、家につくまで俺が預かっとくから、家に帰ってから見ろよ」
「うん、分かったよ」
それでも、彼氏が妬いてくれたのが分かったので、嬉しくて、思わず頬が緩む。
私は彼氏の横に並ぶと、「行こっか?」と、いつもとは違う回り道を存分に楽しんだのだった。
題 ひなまつり
私は小さい頃からひな祭りが怖かった。
どうしてかって?
だって、お内裏様の視線が怖かったから。
まるでこちらを見ているようで、テレビを見ていても、テレビの横に出された雛人形に視線を移さないように必死だった。
トイレに行くときもお内裏様の前を通るのが怖くて仕方なかった。
毎年毎年お母さんに、今年は雛人形は出さなくていいよ、というものの、何言ってるの!と一蹴されるだけだった。
でも・・・理屈じゃなくて、なんか・・・なんか視線が合うような気がして。
どんな角度に変えても、見ると視線が合っているような、こちらを見ているようなゾッとするような気持ちになる。
その理由を私は分からないまま、ただ、お内裏様にいわれのない恐怖を抱きながら成長していた。
やがて私も成長し、結婚して娘を授かった。
私は雛人形を買うのが怖かった。
娘のためにも雛人形は買ってあげようと夫に促されて、雛人形の売っているコーナーに行ったとき、不思議と人形が全然怖くなかった。
私の持っていたのは、三段の大きなお雛様、お内裏様、三人官女が飾ってあったけど、お店には小さな両手で持てるケースに収められたお内裏様とお雛様だけで、顔も可愛らしいと感じた。
私の小さい頃の記憶は何だったんだろうか。子供だから、記憶に補正が入っていたんだろうか?
それとも、人形が小さいからこそ表情があまり気にならないのだろうか。
どちらにしろ、その時、私の恐怖心は綺麗に消えてしまったんだ。
それでも、娘が3歳になった時、娘が私の腕にしがみついてこう言った。
「ママ、お内裏様が私のことにらんでる」、と。
題 たった一つの希望
住めなくなった地球
大気汚染と核戦争の末遺伝子異常を起こした生き物。
人間も例外じゃなかった。
遺伝子の異常をきたした人間の足や腕や目の数がおかしくなり、人類の選別が行われた。
遺伝子異常がある人間は地上に置き去りにし、異常がない人は地下へと隔離して、地下で子孫を残していた。
地上の汚染は深刻で、地上の物は食べられないのに地下では人口が増え続けた。そして慢性的な食料不足に陥っていた。
地上には遺伝子異常がありながら生きている人類がいたのに、遺伝子異常がない人々はそれらを人と見なさなかった。
人類は食料や資源確保の為に他の星に移住することを考えた。
約150年の長い歳月をかけて地下では遠くの星まで行けるロケットがようやく完成した。
悲願が達成されて祝福ムードに包まれた人類。
この頃には食料不足での戦争が頻繁にあちこちで起こり、略奪、強奪など、治安が悪化しまくっていた。
そんな中、選ばれた地下人類が住める惑星を探索する旅に飛び立つことになった。
地下の人々は、ロケットに希望を見出し、新たな安住の地を求めた。
希望を探索乗せたロケットは静かに飛び立った。
地下に住んでいたロケットの乗組員は久しぶりに地上に出た。
何百年も地上は死滅の灰の地と言われ、誰も出てはいけなかった。
地上に出たとたん、眩しい光がロケットの乗組員を襲う。
眼の前に広がった光景に、乗組員達は絶句した。
そこは核戦争の跡形もない美しい緑と水が溢れる惑星だった。
遺伝子異常を起こした人と生き物はいたものの、みな幸せそうな顔をして暮らしていた。
ロケットの乗組員は放射能の数値計スイッチを押す。
その数値は充分人類が住んでも問題がない数値まで落ちていたのだ。
乗組員たちは戸惑いの表情で顔を見合わせる。
希望の地として探していた場所は実は地上だったのではないか?
けれど、今地上に住むことは出来るのだろうかという疑念も沸く。
地上の住人は選別され、言わば捨てられたのだ。
地下の人間が地上に住むことで争いが起こるだろう。
乗組員達は再び顔を見合わせて頷く。
ロケットはそのまま計画通り安住の惑星を求めて飛び立つ。
地上の秘密を地下で打ち明けるのはまだ早い。
安住の地が他の惑星に見つからなかった時に考えても遅くない。
ロケットの乗組員達は皆複雑な表情で、遠ざかっていく緑の地球を眺めていた。
題 欲望
「何で何で何で!!」
私は冷や汗を垂らしながら学校の成績順位表を見ていた。
1位だった私の名前があるはずの場所には他の人の名前が表示されていた。
あんなに頑張ったのに、何で負けるの?!
出来うる限りの時間を勉強にさいたから、負けるはずなんてないのに・・・。
「あ、高坂、1位じゃ〜ん!やったな」
横で脳天気な声が聞こえる。
私が横をバッと見ると、そこには同じクラスの高坂と山本が立ってた。
サッと再び成績表に目を戻すと、1位の名前を確認する。
さっきは自分の名前じゃないって事だけしか頭になかったけど、そこには高坂光希って書いてあった。
「1位なんだ。別に順位はどうでもいいよ。自己ベスト更新出来れば」
「は?本気で言ってるの?」
私は高坂の言葉に思わず口を挟んでしまう。
「あれ?戸川さん?いつも1位だよね、凄いよね」
高坂は私を見てそういう。高坂は、私のこと知ってるんだ。意外。私は私の順位しか気にしたことなかったから・・・じゃなくて。
「私、今回は1位じゃないけど。嫌味?1位に執着ないなら返してよっ、1位の座」
私は高坂にムキになって言っていた。
自分でも何でこんな感情的になっているのか分からない。
「たまたまだよ。誰だって調子いい時と悪い時あるでしょ。戸川さん、いつも1位取ってるから、次はきっと取れるんじゃないかな」
慰められると余計にイライラしてしまう。
そのまま無言で私はクラスに帰る。
何が悪かったんだろう。席に戻るとテストを見返す。
ケアレスミスが何問かあるのを発見した。
どうして、どうして出来なかったの?!
自分を責める。
家に帰るのが憂鬱だ。
どうして出来なかったの?ケアレスミスなんかして。これがなければ100点だったでしょ!!
母親の怒鳴り声が予想できた。
2番なんて、言いたくない。唇を噛みしめる。
放課後、ホームルームが終わっても、私は帰りたくなくて、自分の机でうだうだと宿題をしていた。
はぁぁ。5分おきにため息が出る。
「どうしたの?ため息なんかついて」
後ろから声がして振り返ると、無人だと思っていた教室に、体操着姿の高坂がいた。
「別に、次のテストこそは1位を取るために宿題してるの」
「そっか、本当に勉強熱心なんだね、偉いな」
そう言いながら、高坂は、自分のカバンからタオルを取りだす。
「高坂って、部活やってるの?」
タオルで汗を拭く高坂に質問してみる。
「やってるよ。バスケ部」
「他のことしてても1位取れるの?全て犠牲にしてる私が馬鹿みたい」
私は思わずそう言っていた。
高坂が私の机に歩いてくる。
「1位が取れても、他の楽しいことを犠牲にするのは辛くないの?」
「・・・・」
辛くない・・・って言いたかった。でも、母親に友達と遊ぶのもダメって言われて、部活も禁止されて、1位しか私の頭の中になかった。1位を取りたい。
そんな欲望に呑み込まれてしまうような・・・。
私が、沈黙すると、高坂は言った。
「さっきも言ったけど、たまたまだよ。今回は勉強した所が良く出てたから。次はきっと戸川さんが1位を取るよ。だけど、少しでいいから楽しいことしたほうが勉強もはかどると思うけどな」
「少し・・・ね。ほんの1ミリ位しか出来ないと思う。とりあえず、今日はお母さんに怒られるの決定だし」
私がそう言うと、高坂は、カバンを探って何かを持って私の所へ来た。
「手を出して」
「え?」
高坂の言葉に手を出すと、高坂は紙に包まれたキャンディを私の手に落とす。
「これで、元気だして」
「えっ、キャンディ?・・・ありがと」
「1ミリ位は元気出たかな?」
高坂が何だか気遣わしげな顔でこちらを見ているのが嬉しかった。私を心配してくれる人がいることが嬉しい。
「そうだね、出たと思う」
そう言うと私は宿題を片付けてカバンを持つと、椅子から立ち上がる。
「帰るよ・・・ありがとね」
私が、そう言うと高坂は頷いた。
「どういたしまして、じゃあ僕は部活に戻るから」
高坂と別れて校門を出ると、私はさっきもらったキャンディを出す。
お菓子を持ってくるのは校則違反だけど、お母さんはお菓子は虫歯になるからダメって言うけど、なんかどうでもいいや、と思った。
包みを開けると、綺麗な淡いピンクのキャンディを口に放り込む。
その甘い味は、私に不思議と勇気を与えてくれた気がした。