ミントチョコ

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2/17/2024, 12:43:28 PM

お気に入りのもの

部屋には沢山のお気に入りのものがある。

小学校の時、ゆうちゃんとお揃いで買ったぬいぐるみ。

中学でゆうちゃんと修学旅行で買ったキーホルダーと、憧れの先輩にも買ったまま渡せずじまいだったボールペン。

高校で彼氏と一緒に行った水族館で買ったぬいぐるみ、ゆうちゃんとお揃いのぬいぐるみの横においてある。

大学で両親にお祝いでもらった万年筆。
日記を書くときは絶対にこの万年筆だ。

大学が別になった彼氏から離れないようにと右手の薬指に指輪をもらった。

そのまま月日は経って。

今、結婚式の前夜。

明日式場に持って行く夫になる彼氏と私のペアの結婚指輪が机の上に乗っている。
ゆうちゃんももちろんお祝いに出席してくれる。

いつも過ごしていたこの部屋とも今日でお別れだ。

私は部屋を見渡して思う。

どんなときも一緒だったな。優しい思い出も悲しい思い出も特別な瞬間も、この部屋で噛み締めていたな、と。

さようなら、とありがとう、を私の部屋に告げる。

両親が一階で私の名前を呼んだ。
もう僅かしかこの家で過ごすことのない時間。

「はーい」

私は大きな返事をして、両親に沢山のありがとうを言いに階段を降りていった。

2/15/2024, 1:28:35 PM

「ただいま〜」

ガチャ、家に帰ってきた私。リビングに入ると机の上に私宛の手紙が置いてある。

母親が私に向かって話しかけてきた。

「ほら、小学校の一年の時に書いたでしょ?10年後の自分へって。届いてたよ」

「えー、私何書いたのかな?」

私はドキドキしながら手紙を持って2階に上がる。

自分の部屋に入ると鞄をベッドの上に置いて、その横に座る。

封筒には色鉛筆でハートのマークが何個か書いてあった。

ゆっくりと手紙を開封していくと、中から白い便箋が出てくる。

ピラッ

便箋を開くと、小学校一年の私の拙い文字。

でも、妙に愛着のある文字だった。

「10年後のわたしへ

げんきですか?わたしはまあまあげんきです。
わたしの今のともだちはまおちゃんです。10年後の今のともだちは何ちゃんですか?
犬のミミはげんきですか?たくさんもじがよめるようになっていますか?
わたしはおとなになっていますか?わたしはじぶんを見つけていますか?やりたいことにむかってすすんでいますか?
未来のわたしへ。まけないでください。いつでも10年前のわたしがおうえんしていることをわすれないでください。それではまた10年後にお会いしましょう」

手紙を読んで、私はクスッと笑う。

可愛い文章だ。我ながら。

私はペンと便箋を取り出す。
そして手紙を書いた。

「10年前のわたしへ

お手紙ありがとう。わたしはとっても元気です!
今のわたしのともだちは、さやと、のりかと、みちこちゃんです。仲良くやってるから心配しないでね。
ミミは、もうお年寄りだよ。でも、まだがんばって生きているし、わたしたちも大切に育てているからね。
もじもたくさん読めるようになりました。
わたしは、、、おとなになっているか、しょうじき分かりません。おとなになっているといいんですけど。
そこは10年後のわたしにたくしますね。
じぶんのやりたいことは、イラストです。毎日がんばってかいています。絵のべんきょうをしてしごとにできたらいいな、と思っています。
あなたのおうえんがとてもこころづよかったです。忘れません。10年前の私ががっかりしないように毎日をせいいっぱい生きますね! 10年後のわたしより
PS、かんじはできるだけ使わないようにしました。どれだけ読めるかわからなかったから。」

私は手紙を書くと、もう一度読み返す。

十年前の私へ届くあてもない手紙を書いてしまった。

便箋を封筒に入れると、綺麗なお気に入りのシールを封筒のワンポイントに貼って引き出しの一番上に入れておく。
十年前の私からの手紙に重ねて置いておいた。

また落ち込んだ時は私の力になってね。
あなたと私の手紙を読んで元気を出すから。

そして、私は10年前の私へと言葉に出して一言言う。

「ありがとう」

2/14/2024, 10:28:24 AM

「ふふん♪」

私はご機嫌でスキップしている。

私のカバンの中にはバレンタインの手作りチョコ。
彼氏に向けて頑張って昨日作ったものだ。

今日は放課後デートだから、そこで、彼氏に渡す予定だった。

「おはよっ」

登校途中の友達の真奈に声をかけられる。

「おはよー。真奈もチョコ手作りしたんでしょ?」

私が笑顔で質問すると、真奈が頷く。
真奈も彼氏がいて、家でチョコを作るって張り切っていた。

「そうだよ。昨日は大変だった、温度計とお湯と用意してさぁ〜お母さんに手伝ってもらったよ」

「温度計?なんで?」

「なんで?って、テンパリングしないと、滑らかな口当たりにならないでしょ?温度調節して固めるんだよ」

「え?そーなの?そのまま溶かして入れちゃったよ」

私はさぁぁっと青くなる。

「まぁ、でも、チョコはチョコだしさ、気にしないで」

ポンッと慰めるように肩を叩く真奈の声も耳に入ってこない。

「・・・どうしよう」

妙案も浮かばずに放課後になってしまった。

彼氏が校門で待ってる。

「よっ、行こうぜ」

「あ、うん・・・」

途中で店で買う?でも間に合うかな・・・

私があれこれと思案してると、彼氏が私の顔を覗き込む。

「どーした?」

「あ、うん・・・」

「それ、くれるんじゃないの?」

彼氏は私が手に持っているチョコが入った紙袋を指差す。

「えっ、うん・・・」

「・・・もしかして俺にじゃないの?」

彼氏が疑うような口調で言う。

「もちろんあなたにだよっ・・・でも、友達に作り方違うって言われて・・・美味しくないかも・・・」

私が口ごもると、彼氏はヒョイッと私の持っている紙袋をかすめ取った。

「あっ!」

私が取り返そうと手を伸ばすと、その手首を優しく掴まれる。

「俺にだろ?もうこれは俺のものだ。お前が作ったチョコなら、何だって食べるよ」

にこっと笑顔で笑いかける彼氏に、見とれてしまう。
心臓のドキドキが止まらない。

「来年は・・・もっと頑張って作るから」

「無理するなよ」

優しく頭に手を置かれて、私の中の心のもやもやも晴れていく。

「うん、期待していてね」

私が彼氏に向けて笑顔で返事をすると、

「やっぱり、お前は笑顔の時が一番可愛い」

と彼氏は殺し文句を私に放つ。その後しばらくの間、私の顔の熱は下がることがなかったんだ。

2/13/2024, 1:39:49 PM

もうすぐだから
もうすぐ行くから待ってて・・・。

私は上へと登る

登った先に何があるかなんて分からない。

でも気づいたら登ってた。

ずっとずっと塔を登っていく。ただかろうじての出っ張りに手をかけて。

登った先に何があるのか分からない。

でも約束したような・・・。

そんな気がする。

上へと手をかけて、登っていく時間。

ひたすら登っていく孤独な時間。

だけど、登りたくて。

登らないといけなくて。

・・・だって会えないから。

塔の最上部へと続く出っ張りに手をかける。

ここまで落ちなかったのは奇跡だ。

わたしは思わず下を見る。

奈落のような闇が広がっている。

目眩がまして視点がぐらつく。

塔から手を離しかけたとき、誰かが私の手を掴む。

「やっと来てくれたね」

顔を見て涙が溢れる。

「会いたかった」

私は亡くなったはずの最愛の夫に抱きつく。

「待ってたよ」

私は思い出す。老衰で亡くなった私は孫たちみんなに看取られて天に昇っていったんだ。

気づくと塔の最下層にいた。
ただ、誰かに会いたくて。

その想いだけを胸に塔を登っていた。

「会いたかった」

私はもう一度夫に言う。 
夫は優しく微笑んで頷く。

「来てほしくなかったけど、来てくれて嬉しい」

夫は亡くなった時のままの若い姿で、私も同じ位の若い姿に変わって2人で抱擁を交わす。

二人の間に光が溢れ出し、どこかもっと上へ昇っていくようだ。

どこまでいっても後悔しないよもう。
あなたと一緒ならば

2/12/2024, 1:53:48 PM

伝えたい
でも伝わらない

「だから、あんたのこと好きなのっ」

私は一緒に登校する幼馴染に捲し立てた。

「知ってるって。しつこいなぁもう。一度言えば分かるよ」

幼馴染は、髪の毛を整えると大あくびをした。

「何でそーゆー態度なの?それが乙女に対する対応なの?!」

私がムッとして詰め寄ると、幼馴染は、欠伸をした涙目で私を見る。

「乙女?どこに?」

「もういいっ」

カバンでバターンと幼馴染をはたくと、私は先に駆け出した。


「くやしぃぃ」

学校に到着して、私が机で文句を言っていると、友達がやってきた。

「またやってるの?懲りないね」

「だって、あいつってば、折角私から告白してるのに、わかってるって言うだけなんだもん。言い損な気がするよ」

「そっか〜でもさ、毎回聞いてて思うんだけど、佳奈美も結構逆ギレ告白みたいだからさ。それもあるんじゃない?」

「そりゃ、恥ずかしいし・・・」

私の声は急に小さくなる。

あいつの前では、どうも強がってしまう。好きだけど、素直になれない。

「その態度に相手も反発しちゃうんじゃない?今度機会があったら、ソフトに、ソフトに伝えてみたら?」

「ソフトに・・・」

私、ちゃんと優しく、普通に伝えたことあったっけ?
いつも怒ったみたいな言い方だったかも。

「・・・わかった」

「うんっ、頑張ってね!」

笑顔の友達に頷いて見せる私。


放課後、私はいつものように幼馴染と家に帰る。

優しくしないと、と思うあまり無言になってしまう。

私が何も言わないので、幼馴染がチラチラ私を見ている気がする。

「・・・何かあったのか?」

幼馴染が珍しく自分から口を開く。

いつも私から一方的に話していたから心配になったのかもしれない。

「・・・なにもないよ」

私がそう返すと、幼馴染は、さらに聞いてくる。

「明らかにいつものお前じゃないじゃん」

「・・・じゃあ言うけど」

私は深呼吸をして言った。

「・・・好きなんだよ。あなたのことが。ちゃんと返事がほしいの。嫌いなら嫌いでいいから。真剣なの」

「いきなり、なんだよ」

幼馴染は、顔を赤くして横を見る。

「私のこと、どう思ってるの?」

「・・・・」

かりかりと幼馴染は、自分の頭をかいた。

「・・・好きだよ」

一言だけ言う幼馴染の言葉に耳を疑う。

「え?好きって言ったの?!」

私の大声に、幼馴染は、顔を赤くして言う。

「大きな声で言うなよ。なんか照れくさくて、返事する雰囲気でもなくて言えなかっただけだよ」

「本当?よかったぁ」

私は嬉しくて、幼馴染により掛かる。

「うわっ、なっ、お前っ!」

幼馴染の慌てた声がするけど、私は気にならなかった。

「ずっと好きだった」

私が抱きしめながら言うと、

「・・・うん」

と幼馴染は私の背中におずおずと手を回す。

その時間が、空間が幸せで、私は時が止まってしまえばいいと思う。

私と幼馴染はしばらく何も言わずに、その場所から動けずに、ただ、そこで抱きしめ合っていた。

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