「凄く月が綺麗だね」
私は美しく白に近い輝きを放つ月を見上げて言った。
「うん、そうだね」
彼氏は、微笑んで私に同意する。
「月っていつも綺麗だよね。三日月も、満月も、半月も。僕は好きだな」
「私も!月って、どんな月も見てると癒やされるよね?」
私は、彼の言葉に頷く。
今日は彼氏とデートの帰り道。
二人共何となく帰り難くて、ゆっくりと歩きながら家へと向かっていた。
「今日楽しかったよ、ありがとう」
彼氏が私を見て言う。
「私こそ、とっても楽しかった!また一緒に出かけようね」
私が笑顔で応えると、彼氏も笑って頷く。
それだけのことが嬉しくて、幸せで、有頂天になりそうな、ウキウキした気持ちになる。
「月って君みたいだよね」
不意に彼氏が言う。
「私みたい?」
「うん、色んな表情を浮かべるけど、どの君も僕は好きで、飽きないし、美しいって思うよ」
「あ・・・ありがとう」
私は不意打ちの褒め言葉に、かぁぁっと赤くなってしまう。
「私も、どんなあなたでも大好きだよ」
私がそう返すと、彼は私と繋いでいる手をギュッと強く握る。
「どうしよう。このまま、帰りたくなくなっちゃったよ」
彼の言葉に私も胸がキュンキュンして、止まらなくなる。
「このままずっと時が止まればいいのにね」
そんな事を言って見つめ合う私達。
全く進まない私達の帰り道を、月はいつもと変わらない優しさで照らし続けてくれていた。
この世界は輝いてる
ルンルン♪
私はスキップしながら歩いていた。
雨上がりの美しい青い空、ふわふわした雲。
水滴の残るあじさいにはカタツムリが這ってる。
全てが綺麗でステキな世界。
前方に登校中のタカシくんを見つける。
「おはよー!」
私が満面の笑みで話すと、タカシくんは私をチラッと見たきり視線を前に戻した。
「・・・おす」
「タカシくんも、雨上がりの美しさに感動していたの?!」
私がクルッと回って楽しい気持ちに浸って言うと、タカシくんは、首を降って言う。
「嫌。最悪。そもそも雨嫌いだし、雨降った後って湿度でじめじめするし、靴汚れるし、俺の嫌いなカタツムリもいるし。本当、朝から気分悪い」
「えっ、そうなの?タカシくん、晴れの方が好きなんだ〜!そっかー♪晴れの日も、気持ちいいよね!明日は晴れるかなぁ?」
私は、タカシくんの言葉に、明日の晴れの日に想いをはせた。
タカシくんは、眉を少しひそめながら言う。
「晴れだって、暑くなるのは、俺は嫌いなんだよ。汗出るし、日差し強い中、学校行くなんてだるいだろ」
ゆっくりと歩きながら叩き出すように言葉を発するタカシくん。
「うんうん、暑さと日差しには、日傘とかオススメ!私、こないだお気に入りの日傘買ったんだ。そうそう、最近携帯扇風機流行ってるんだって〜!タカシくんも買ってみたら?あ、一緒に買いに行ってみる?」
私の言葉にタカシくんは激しく首を振る。
「は?なんで一緒に行く必要あんの?別にいいよ、携帯扇風機とか高いし、お金もったいないし。おまえってなんかズレてるよな、いつも」
「ありがとー褒めてくれて♪私いつも褒めてもらえるんだ、嬉しいなー。じゃあ、扇風機買ったら一緒に使おうね?タカシくんと一緒に使ったら登校きっと楽しくなるねっ!」
私の言葉に、タカシくんは、ギョッとしたような顔をして見てくる。
「何言ってんだよ!そもそも褒めてないよ。・・・はぁ、もう・・・面倒臭いからそれでいいよ」
タカシくんがそう言ってくれるので、私はますます楽しい気持ちになってくる。
「タカシくんって、優しい♪」
「優しいって定義、完全に間違えてると思う・・・」
タカシくんは呆れたような顔で私の顔を見る。
何か、こうしてしっかり顔を見られるのは初めてかも・・・。
「まっ、でもこうして面白人間に会えて退屈はしてないかもな」
「え?誰のこと?」
面白人間を見たくてキョロキョロする私にタカシくんは「マジか」と信じられないものを見るかのような視線を向けて来た。
「行くぞ、遅刻する」
「はーい♪」
さっさと歩くタカシくんの後を、私は弾んだ足取りで追いかけた。
今日も私の世界は輝いてる。
「どうして?」
どうして私じゃだめなんだろう?
先輩には中1から付き合ってる彼女がいて
私は先輩のこと小6から好きだった。
言えずにいた。
言えずにいたその間に
先輩は好きな人を見つけて、その人と付き合ってしまった。
頑張って話しかけたのに。
挨拶して目に止まるようにしたのに。
何がだめだったのかな?
もし私が小6の時に告白していたら
先輩の横に並んでいるのは私だったのかな。
黒い思考が私を埋め尽くす。
今日も私は先輩に挨拶する。
横には先輩の彼女がいて
先輩は一瞬私に笑いかけておはよう、というとすぐに彼女に目を向ける。
柔らかくて特別な視線を。
私はその視線を見たくないのに
先輩に向けられる一瞬の笑顔を見たくて声をかけてしまう。
切なくて嬉しくて、絶望
この感情の波から
誰か助けて
夢を
夢を見ている
いつでも私はその夢の中で冒険や生活をしている
小さい頃から見ている夢
どこか知らない場所
草で編まれた住居
食物は野菜と果物だけ
空に見える月らしき惑星は2つ
そんな村で私はユラクと出会う
幼い頃から一緒で
私が成長する度にユラクも成長する
そのスラッとした整った顔に
私は恋をした
でも誰に言える?
誰に告白できる?
私の不確かな夢にしかあなたはいない
ユラクのこと、夢ではこんなに確かに触れられるのに
私の想いは現実では叶うことがない
好きだよ
好きだよユラク
でもあと何回夢で見ることが、会うことが出来るんだろう
不安で泣きたくなる
あなただけを見ているのに
次に逢うことが出来ないかもしれない恐怖
あなたのことが好きだから
今日も眠りにつく
あなたのもとへ行きたい
せめて限られた時間なのならば
少しでも多くあなたの側にいさせて
私は1秒でも長くユラクといられるように神に祈りながら
今日も静かに眠りにつく
「ねえ、私達ってずっとこのままだよね?」
私は、カフェの向かいでコーヒーをすする彼氏を見て言った。
「何?ずっとこのままって?」
無関心そうな彼は、携帯を眺めながら私に返事をした。
「だから、ずっと、こうして一緒だよね」
私は彼氏の態度に不安を覚えながら言う。
冷たいというか、今いち私のことが好きなのか読めない彼。
クールな人が好きという私の性格の為に、こうしていつも付き合ってみるとやきもきするんだ。
「ずっと一緒なんて約束できないけど。未来のことを俺に聞かれても困るよ」
携帯から顔を上げて呆れたような顔で私を見る彼。
「そ、それは約束っていうか、必ずはないかもだけど、こういう時って嘘でもいいから、合わせるものじゃないの?」
私は一緒にいるって言ってほしくてさらに追求する。
「嘘で言って嬉しいの?」
彼の冷たい瞳は揺らがない。
「いや、それは、嬉しくないけども・・・」
私がしどろもどろになると、彼はため息をついた。
呆れられちゃったかな?
「分からないかな?」
「え?何が?」
彼の言葉に訳が分からず聞き返す。
「今こうして君との時間作ってるのは、君が一番大切だから。未来なんて不確定なものより、今確定してることを大事にしたら?」
「あ・・・」
言われて気づく。そうだね、私、不安ばかりで、今より将来のことばかり考えてた。
「そうだね、今会ってる時間を大事にするね」
私が彼にほほえむと、彼の表情も少し緩む。
彼の表情が優しくなるときがたまらなく好きだ。
「好きだよ」
と私が笑いかけると、
「知ってる」
とすまして言う彼。
冷たいように見えるけど、私は彼の優しさも知ってるんだ。
だから、何年後も一緒にいられるように、彼といる時間を大切にしたいと心から思った。