母上さま、貴方は私を何故、息子にして下さったのですか?
何度も窃盗を繰り返し、全てを憎んでいた私を、
貴族である貴方は何故、養子にして下さったのですか?
貴方は、最期に私を後継ぎにまで指名して下さいました。
何故ですか?
何故、いつも口を閉ざされていたのですか?
私を評価して下さる時は、あれほどまでに饒舌ではありませんか。
母上さま、どうか、もう一度だけ目を覚まして下さいませんか?
最後の最期です。
私が貴方にわがままを聞くのは…。
主よ、どうか、お願い致します。
母上さまを、少しの時間だけ蘇らせて下さいませんか?
永遠。
そんな事は、不可能だ。
少なくとも、私はそう思う。
何故なら、歴史が度々を証明していると知っているから。
永遠、それは、平和な世の人間の発想だ。
変遷する世の人間としては、
世とは過ぎ去るくらいが調度良い。
昨今は、栄えを良しとするように見える。
しかし、私から言わせれば、栄えとは盲信に近い。
かつての努力が実を結ぶのは、大変好ましい。
しかし、そこに胡座をかいて、忘れてはならない。
物事とは、常に動き続ける事を。
微細だが、確実に。
変化に気付いたのなら、もう遅かった。
歴史には、その現実が度々綴られている。
だから、昔から言うのだ。
勉強しろなどと、大人は子に繰り返し言うのだ。
今は、平和な世だ。
しかし、だからこそ、迷うというもの。
ならば、学んでみよ。
書物だけが勉強とは限らぬよ。
人の話に耳を傾ける。
これこそ、知の始まりだと私は思う。
懐かしい。
昔、雪の降る夜に、玄関に放り出された事があった。
今ならアウトだが、当時は割と有った事だ。
かなり厚着させられ、外に放り出されたのだ。
こう読むと、やはり、文章とは続きを読む必要があると思わぬか。
年寄りなりの悪戯だ。
水に流して欲しい。
外は暗いものだとばかり思っていたが、
実際は街灯が幾重にも連なり道を照らしていた。
妙に明るかったのを憶えている。
昼間とは質の違う明るさ故、燥いだのは母には秘密だ。
等々、母は旅立ってしまった。
本当に良い母だった。
今日は、あの日のような雪の夜だった。
夜を照る、街灯を見て思い出した。
読んでくれてありがとう、見知らぬ人よ。
私なりの母への弔いでした。
血が、絨毯を染めていた。
この絨毯は、渡来のものでとても高価なのに残念だ。
これは、もう落ちないだろう。
ちょうど夕刻だからか、空もまた絨毯のように染まっていた。
見事な偶然だ。
こういう時、詩を詠めれば格好良いと思う。
詩など詠めないのが悔まれる。
さあ、部下を呼ぼう。
私には、この後始末は出来ない。
残念ながら、こういう事は苦手なのだ。
「何を悩む必要がある。」
それは、冷酷にも身内から言われた言葉だった。
嗚呼、この人は私と違う世界を生きている。
そう思わずには、居られなかった。
あの優しい兄は、もうそこには居なかった。
あの優しい兄は、もう見知らぬ人だった。
時の流れとは、常に残酷だ。
そう、祖父から聞いた。
嗚呼、あの言葉は本当だったのだ。
何が、否、何時からだ。
私は、何故、兄の変化に気付かなかった。
私は、今まで何を見ていたのだろう。
虚構か、将又、せん妄か。
私は、人が変わる様を……、人が適応する様を……、
知らなかったのだろうか。
私の知る兄に、何時から化かされたのだ。
嗚呼、私は何と愚鈍なのだろう。
私には、才が無い。
初めて、そう実感した。
私のような人間を、この世界ではカモと称すのだろう。
私のような人間は、この世界ですぐさま喰われるのだろう。
私は、この先、生きられるのだろうか。
それは、天帝にしか分からない。
きっと、こうして信仰は生まれたのだ。