kiliu yoa

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12/8/2024, 2:33:20 PM

「すまなかった。

 本当にすまなかった。

 若き日の貴女への仕打ちを、今、此処に謝罪させて欲しい。」

私は、人を愛することを何よりも恐れていた。

若き日の私は、その自覚さえ無かった。

私の両親の最初の記憶は、浮気性な父を母が責めているところだった。

母は、発狂していた。

『あなたは、いつも、いつも、他の女にばかり目を向けて!』

父は、冷たく突き離していた。

『あなたも、愛人を持てば良い。』

母は、父を心から愛し続けていた。

あれだけ軽々しく扱われながらも、父という男に侮辱されながらも、

いつも変わらず、一途に妻として最期まで愛し続けた。

実の子たる私さえ、その目には映さなかったほどに。

母があれほど父に執着していたのは、

カトリックの教育を受けて、信奉していたのも有ったと思う。

しかし、そのさまは、私の目に狂気として映った。

人を愛するとは、私にとって正気の沙汰では無かった。

「今さら赦しを乞うつもりは、無い。

 唯、これだけは信じて欲しい。

 私は、妻たる貴女を心から愛している。」

私は、声を振り絞る。

貴女は言った。

「ありがとう、言葉にしてくれて。
 
 でもね、疾うの昔から、わたしは知っていたわ。

 貴男は、わたしを心から愛してくれていたことを。」

貴女は微笑み、言葉を続けた、

「貴男は、昔から本当に不器用ね。
 
 だから、可愛いのだけど。

 わたしの愛しき人、わたしの生涯に渡り愛し続ける、唯一の人。

 わたしの目を見て。」

貴女は、私の輪郭に両手を添える。

「わたしは、もう怒ってなどいないわ。
 
 貴男を赦します。

 だから、もう泣いて良いのよ。

 だから、もう、わたしを愛し続けて良いのよ。」

涙が一筋零れる。

涙が溢れてくる。

そんな情けない私を、最愛の貴女は優しく抱きしめた。



 
 

 


12/4/2024, 8:54:08 AM

私は、愛人。

誰よりも、彼を愛してきた。

一途に、一途に、愛してきた。

彼が家に来る時は、いつも夜だった。

華やかなシルクのキャミソールドレスを着て、

艶やかな化粧をして、

甘い声をした。

正直、彼と結婚できると思っていた。

彼は、奥さんより私の方が綺麗だと思っていた。

でも、現実は違った。


彼の奥さんを遠目で見た。

すぐに分かった





12/1/2024, 1:55:19 PM

遙かなる 予期せぬ早さ 幼子よ われ知らぬうち 巣から飛び去る

11/30/2024, 2:26:08 PM

「兄上、どうか、私の死を悲しまないで。」

血の海に、彼は浸る。

柔らかく、微笑み、いつものよう私を尊敬の眼差しで見る。

「嗚呼、頑張るよ。」

私は、辛うじて笑みを浮かべた。

「兄上、あなたは私の憧れでした。

 例え、理解されなくとも怯まず、

 例え、冷遇されても結果で圧倒し、

 何があろうと己を信じ、

 何があろうと努める。

 その姿は、正しく我家を継ぐに相応しい。」

彼は死の淵に漂いながらも、

その瞳は潤み輝きを増し、

彼の表情は、まるで英雄譚を語る子供のようであった。


そして、月日は流れる。

私は、今、死の淵を漂う。

後にも先にも、彼、いや、貴男だけだったよ。

私に、あのような眼差しを向けてくれたのは。

やっと、そちらに行けるようだ。

嗚呼、なんと永き月日だったであろう。

貴男の最期は、一度たりとも忘れられた事など無かった。

私は、血の海に浸る。

永きに渡り、待ち望んできた、死とは、こんなにも穏やかだったのか。

ならば、あの時、私がこの手で最後に貴男を殺めた時、

先代を殺し、兄弟を皆殺し、

我家の悪習という名の代替わりを成し遂げた時、

貴男が何故、いつも以上に穏やかだったのか、

やっと分かったよ。


「我が息子よ、私の死を悲しむな。」

息子は涙を堪えながらも、覚悟を決めた表情をしていた。

私は、瞼を閉じる。

「承知、致しました。」

微かに、息子の声が聞こえた。
















11/28/2024, 1:49:53 AM

わたくしの夫は、ろうそくの灯りのような人だった。

自然の草木を愛で、動物と語らい、楽器を奏でる。

平和と豊かさを心から愛している人だった。

太陽のような輝かしさ、宝石のような華やかさは無くとも、

暗闇を柔らかく照らし、多くの人々を安心させる、ろうそくの灯り。

皆の日々を支え続ける、温かい心遣いのできる人。

本当に非の打ち所の無い、自慢の夫だった。



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