「すまなかった。
本当にすまなかった。
若き日の貴女への仕打ちを、今、此処に謝罪させて欲しい。」
私は、人を愛することを何よりも恐れていた。
若き日の私は、その自覚さえ無かった。
私の両親の最初の記憶は、浮気性な父を母が責めているところだった。
母は、発狂していた。
『あなたは、いつも、いつも、他の女にばかり目を向けて!』
父は、冷たく突き離していた。
『あなたも、愛人を持てば良い。』
母は、父を心から愛し続けていた。
あれだけ軽々しく扱われながらも、父という男に侮辱されながらも、
いつも変わらず、一途に妻として最期まで愛し続けた。
実の子たる私さえ、その目には映さなかったほどに。
母があれほど父に執着していたのは、
カトリックの教育を受けて、信奉していたのも有ったと思う。
しかし、そのさまは、私の目に狂気として映った。
人を愛するとは、私にとって正気の沙汰では無かった。
「今さら赦しを乞うつもりは、無い。
唯、これだけは信じて欲しい。
私は、妻たる貴女を心から愛している。」
私は、声を振り絞る。
貴女は言った。
「ありがとう、言葉にしてくれて。
でもね、疾うの昔から、わたしは知っていたわ。
貴男は、わたしを心から愛してくれていたことを。」
貴女は微笑み、言葉を続けた、
「貴男は、昔から本当に不器用ね。
だから、可愛いのだけど。
わたしの愛しき人、わたしの生涯に渡り愛し続ける、唯一の人。
わたしの目を見て。」
貴女は、私の輪郭に両手を添える。
「わたしは、もう怒ってなどいないわ。
貴男を赦します。
だから、もう泣いて良いのよ。
だから、もう、わたしを愛し続けて良いのよ。」
涙が一筋零れる。
涙が溢れてくる。
そんな情けない私を、最愛の貴女は優しく抱きしめた。
12/8/2024, 2:33:20 PM