「兄上、どうか、私の死を悲しまないで。」
血の海に、彼は浸る。
柔らかく、微笑み、いつものよう私を尊敬の眼差しで見る。
「嗚呼、頑張るよ。」
私は、辛うじて笑みを浮かべた。
「兄上、あなたは私の憧れでした。
例え、理解されなくとも怯まず、
例え、冷遇されても結果で圧倒し、
何があろうと己を信じ、
何があろうと努める。
その姿は、正しく我家を継ぐに相応しい。」
彼は死の淵に漂いながらも、
その瞳は潤み輝きを増し、
彼の表情は、まるで英雄譚を語る子供のようであった。
そして、月日は流れる。
私は、今、死の淵を漂う。
後にも先にも、彼、いや、貴男だけだったよ。
私に、あのような眼差しを向けてくれたのは。
やっと、そちらに行けるようだ。
嗚呼、なんと永き月日だったであろう。
貴男の最期は、一度たりとも忘れられた事など無かった。
私は、血の海に浸る。
永きに渡り、待ち望んできた、死とは、こんなにも穏やかだったのか。
ならば、あの時、私がこの手で最後に貴男を殺めた時、
先代を殺し、兄弟を皆殺し、
我家の悪習という名の代替わりを成し遂げた時、
貴男が何故、いつも以上に穏やかだったのか、
やっと分かったよ。
「我が息子よ、私の死を悲しむな。」
息子は涙を堪えながらも、覚悟を決めた表情をしていた。
私は、瞼を閉じる。
「承知、致しました。」
微かに、息子の声が聞こえた。
11/30/2024, 2:26:08 PM