「この宝石、とっても綺麗ね。」
「そうだろ、きみの為に世界中を探し回って見つけたんだ。」
微笑む若い女性と誇らしげな初老の男性、歳の差は孫と祖父ほどある。
しかし、このふたりが一緒に居ると何故だかしっくりくる。
なんとも、不思議だ。
多くの場合、非常に不釣り合いで娼婦とその客に見える。
なのに、あの夫婦は仲睦まじい夫婦だとひと目で分かる。
言葉では、表せない何かを感じる。
ああ、きっとそれは雰囲気だ。
麗らかな春のような暖かい、心地良い柔らかい雰囲気。
お互いに自然と気遣い、支えあって手をつなぐ姿。
もしかしたら、これが夫婦の『かたち』なのかもしれない。
もし、そうなら私もいつか、こんな風な関係を築きたいものである。
あなたは、あたしを置いて世を去った。
あなたは、まだお若くあらせられたから、皆々『なんと悲しきことだ。』
と、心もとない言葉をうやうやしく申して、
偽りの憂いの面持ちをして居られました。
しかし、あなたを慕う親しき方々は、違いました。
『あゝなんと申せば良いのでしょう。』と、ぽつりと申され、
悲しげな悔しげな寂しげな哀しげな、言葉では現し難い複雑な面持ちで
涙を堪えきれず、皆様泣いて居られました。
美しき 咲かせた花の 散り際は 色濃く現る 一期の姿
今日の一日を通して、浮び上がった短歌です。
人生という名の美しい花は、どれだけ足掻こうとも、
最期には死という形で散ってしまいます。
しかし、その花の散り際には、その人の生き方が、どれだけ隠そうとも
鮮明に現れることを、あなたの死を通して知りました。
あなた…、ああ…、どうして、わたしより先に…、あなたが……。
お願い……、どうか、戻って来て、一度だけでも戻ってきて。
そして、云われて下さい。
……誰よりもお慕い申しておりました、と。
……誰よりも愛おしく想っておりました、と。
あゝ……なんで云わなかったのだろう。
あゝ……なんで、あなたが去った後に気が付いたのだろう。
もう一度だけ、夢でも良いから、あなたに逢いたい。
「兄さま、あなたの苦労は、僕が一番存じております。ですから……、」
「貴方に私の何が分かると言うのですか。
兄のように、弟たちのように、貴方のように、
私だって、天賦の才が欲しかった。
永年、封じてきた羨望を、為せぬ苦しみを、支える身の葛藤を、
そう分かったように仰せにならないで下さい。
私が如何様な思いで、貴方を兄として支え、お守りしてきたか、
貴方には、到底分からぬことなのです。
いえ、解ったとしても、想像出来たとしても、
我が身で経験してない人間が、そう簡単に仰せにならないで下さい。
この、苦しみというには深い傷を負い、決して癒えることの無かった、
その傷を隠し、恥じて生きてゆく身として、
貴方に忠誠を誓う身として、唯一の願いにございます。」
あなたは、白い隼のよう。
いつもまっすぐ、わたしのもとに来てくれる。
たくさんの愛情と色欲を注ぎ続け、わたしを満たしてくれる。
そして、貴方はわたしのもとをあっという間に去ってゆく。
それは、わたしが貴方の一番では、嫡妻では無いことを意味している。
わたしは所詮、妾に過ぎないことを如実に現している。
貴方が酷いひとなら、よかったのに。
貴方が酷いひとなら、鳥のように飛び立てたのに。
夕空の 焼きつくやうな 陽光は 人目を憚ぬ 燃えゆ恋のよう