それは、大人になるという指標。
大人という概念は、わたしにとって極めて曖昧なものだ。
成熟する。
その基準も、人により異なるだろう。
何を持って、大人とするか。
何を持って、成熟するのか。
わたしには、まだ分からない。
むかし読んだ作品には、
『大人とは、嫌いな人間の幸福を祈れるようになることだ。』
と、記されていたような気がする。
それは、当時のまだ幼い私は腑に落ちるものだった。
今のわたしには、そう思えることが如何に難しく凄いことか、
少しだけ垣間見えた。
それは、越えられぬ城壁のように大きい。
大人とは、子どものわたしには理解が及ばぬ、
様々な感覚があるように感じる。
言葉には現しきれぬ、感覚。
その感覚を得られるほどの歳を重ねたいものである。
寒い、寒い。
手には、もう感覚がない。
少しでも、早く火を起こそう。
しかし、木が湿って火を起こせない。
塹壕の中では、やはり何でも湿ってしまう。
私の足すらも……。
私も、彼らのように足を切断せねば、ならないのだろうか。
こんなことなら、いっそのこと自殺しようかな。
ハハ…。
戦争って、こんなんだっけ。
おかしいな、昔の戦争はこんなに永くは続かなかった。
おかしいな、昔の戦争はこんなに兵士は死ななかった。
おかしいな、此処まで兵士を人間として扱わなかったっけ……。
あれ?今迄、私は何のために生きてきたんだっけ。
頬を白魚のような両手で優しく包まれ、輪郭を指でなぞられる。
「かわいいひと。」
甘い蜜のような声を耳元で囁かれる。
『天上の花』
そんな言葉が頭を過る。
蜜のように甘く、天女のように美しい女性。
それが、彼女で在った。
遊女に惚れ込むとは、愚かな自覚がある。
それでも彼女と過ごす一時は、本当に幸せで在った。
美しく、立ちはだかる。
貴方のような人に、私は成りたかった。
貴方のように、底知れぬ強さが欲しかった。
貴方のように、飾らぬ心が欲しかった。
貴方のように、整った容姿が欲しかった。
貴方のように、自分自身に素直に生きたかった。
そう、まるで日の出のように……貴方は眩く、美しい。
『悠々自適』
それが、私の今年の抱負です。
去年は、かつてのように出来ぬことを実感した一年でした。
やはり、以前なら容易く出来たことが……今の私には出来なくなりました。
悪戦苦闘の日々が四年間も続いており、五年目に差し掛かりました。
正直、もう悔しいくて、悲しくて、嫌に成りました。
自殺も考えた時期があるほどに……。
しかし、この経験を通して、得たものもとても多いのです。
本当に自分の価値観が大きく変わりました。
それからは、本当に生きることが楽になりました。
「生きることを選んで、本当に良かった。」
と、今なら……胸を張って言うことが出来ます。