kiliu yoa

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12/16/2023, 4:15:17 PM

「何故、貴男様方がこちらに。」

警備員が止めに入る。

「アポは取ってるから、安心してよ。」

「了承の手紙を見せた方が良いのか。」

「……。」

三人の紳士は、半ば強引に門を潜ろうとした。

「しかし、いくら貴方様方と言えど…。」

警備員は、彼らを知っていた。

いや、寧ろ…知らぬ方がおかしい。

其れほどまでに、彼らはこの屋敷の主人と親しかった。

警備員は、彼らを止められなかった。

この屋敷の使用人も止めに入ろうとしたが、彼らを止められず、

とうとう主人の寝室のドアの前まで来て、勢いよくドアを開けた。

「おうおう、大丈夫か。見舞いに来てやったぞ。」

「大きい声を出すな。身体に触るだろう。」

「花束、持ってきたよ。」

私は、苦笑した。

どこから、私が風邪で伏せっていることを聞いたのだろう。

私は身体が弱く、幼い頃から体調を崩しやすかった。

私にとって、風邪は脅威だ。

風邪と侮れば、私の命は幾つあっても足りないほどに。

だから、彼らの見舞いが嬉しくて、涙が溢れそうだった。

彼らが屋敷に無断で入ってきたのは、廊下が騒がしくて分かった。

「来てくれて、本当にありがとう。」

ぽろっと、私の口から零れた。

「気にすんな。」

「互いに忙しい身だから、こうして集まれるから良いよ。」

「おまえは、どうなの?嫌じゃない?嫌だったら、遠慮なく言って。」

彼らは、口々に言った。

「安心して、嫌じゃない。寧ろ、嬉しいくらいだよ。」

嬉し涙をぐっと堪えて、笑って応えた。













12/15/2023, 2:44:08 PM

『次は、いつ逢えますか。』

『そうだな。雪が降る頃に又来るよ。』




「あなた。」

「雪の降る頃、約束通り迎えに来たよ。私の花嫁さん。」

「お待ちしておりました。」

「長い事、待たせてしまった…本当にすまない。」

「いいえ、構いません。あなたのお側に居れるなら、何年でも待ちます。」

「ありがとう。いつも、君の優しさに救われる。」

「これからも、末永く宜しくお願いします。」

「こちらこそ、これからも末永く宜しくお願いします。」












 




12/14/2023, 3:33:39 PM

街を歩くと、至る所に色とりどりの電灯が灯る。

其れは、冬の日の短さを逆手に取った発明。

この時期、其れは本当に美しく、心奪われる。

寒さの中、だからこそ映える灯たち。

多くの人々の心を明るくする、灯たち。

やはり、いつの時代も灯は…人の心を照らしてくれる。

ふふふ、この感動を…なんと言い表そう。

私には、到底表せそうにない感動だ。

皆は、灯をどう捉える。

あなたにとって、灯とは、どんなものだろうか。








12/11/2023, 3:22:10 PM

「もう一度、申してみよ。」

上司の静かな怒りが籠もった、低く声が響き渡る。

「申し訳、御座居ませんでした。」

両手を正面にハの字に置き、土下座をする。

必死に声の震えを抑えたが、やはり少し声が震えていた。

心臓を握られているような感覚がする。

「面を上げよ。」

主君の声が響く。

「はい。」

震えながら、面を上げる。

「そう怯えるでない。大丈夫だ。今は、吾が居る。

 決して、刀を抜かせぬ故、安心するが良い。」

主君の明瞭な声が響く。

「いくら貴殿が部下に厳しかろうとも、吾の顔に泥を塗る行為は出来ぬ。」

主君は、諌めるように上司に釘を刺した。

「はい。主君の命ならば、致し方或りません。」

先ほどの感情は嘘のように、上司は平然と応えた。

「任務が達せられ無かったことは、致し方無い。

 やはり、どれだけ経験を積もうとも一定数、対応出来ぬことは或る。

 何故、任務を達せられなかったのか、

 それを皆で内省し、分析し、共有し合い、次に活かすことが重要である。」

主君の、優しい声が響き渡った。

「寛大な御判断、心より感謝申し上げます。」

無意識に頭を下げた。

今にも、涙が溢れそうだった。

「良いか、よく聴け。

 この度の件、確かに任務は達せられ無かった。

 しかし、幸い、貴様ら任務に当たった者は少数だが帰還した。

 其れは、正しく貴様の、率いる者としての功だ。

 これからも、精進すると良い。」

主君の声が近くで聞こえ、一瞬だが私の肩に手を置かれたのだった。

私は、頭を上げた。

そして、主君の目を見た。

「以後、精進して参ります。」

私は深く頭を下げ、誓った。

生涯、この方に忠誠を誓おうと。






12/10/2023, 1:50:37 PM

「もう、こんな仕事やめてやる。」

酒瓶を片手に愚痴る男が居た。

「おい、大丈夫か。酔っ払い。」

私は、この男を昔から知っている。

「五月蝿い。俺は酔ってない。」

その口調は、完全に酔いが回っていた。

「いや、完全に酔ってる。一人称、変わってる。」

そして、この男は酔いが回ると、一人称が俺に変わる。昔のように…。

「五月蝿い!おまえに何が分かる。」

一従者たる私には、あなたの苦労は到底…分かりかねない。

「どんなに嘆こうとも、この仕事は辞められないって。

 どうしても辞めたいなら、僕、自ら殺してやろうか。」

昔のように冗談を言ってみる。

「嗚呼、頼む。もう、私は全て終いにしたい。」

頭が真っ白に成った。

「いつ、酔いから覚めた。」

何故なら、その声にその口調はシラフの彼の口調だったから。

「僕、自ら殺してやろうか。って、ところから。」

バシッ「ふざけるな!」

思いっきり頬を引っ叩いて、大声を上げて、あいつの胸ぐらを掴んでいた。

「其れだけは、絶対言うな!其れだけは、言わぬ約束だろう!」

私は激情に駆られ、怒鳴ってしまった。

分かっている、今のは私が悪い。

誰だって、たまには弱音を吐きたくなるし、死にたくなるものだ。

でも、あの日、あの時、誓ったことを忘れていた、彼が許せなかった。

彼は、ひどく驚いた表情をして、安堵したような表情に成った。

「嗚呼、そうだったな。昔、誓ったのだったな。すまない。」

「こちらこそ、大人気なく感情的になってしまい、すみませんでした。」

あっ、彼の顔付きが変わった。

憑き物が落ちた、晴々とした表情に変わっていた。





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