「もう一度、申してみよ。」
上司の静かな怒りが籠もった、低く声が響き渡る。
「申し訳、御座居ませんでした。」
両手を正面にハの字に置き、土下座をする。
必死に声の震えを抑えたが、やはり少し声が震えていた。
心臓を握られているような感覚がする。
「面を上げよ。」
主君の声が響く。
「はい。」
震えながら、面を上げる。
「そう怯えるでない。大丈夫だ。今は、吾が居る。
決して、刀を抜かせぬ故、安心するが良い。」
主君の明瞭な声が響く。
「いくら貴殿が部下に厳しかろうとも、吾の顔に泥を塗る行為は出来ぬ。」
主君は、諌めるように上司に釘を刺した。
「はい。主君の命ならば、致し方或りません。」
先ほどの感情は嘘のように、上司は平然と応えた。
「任務が達せられ無かったことは、致し方無い。
やはり、どれだけ経験を積もうとも一定数、対応出来ぬことは或る。
何故、任務を達せられなかったのか、
それを皆で内省し、分析し、共有し合い、次に活かすことが重要である。」
主君の、優しい声が響き渡った。
「寛大な御判断、心より感謝申し上げます。」
無意識に頭を下げた。
今にも、涙が溢れそうだった。
「良いか、よく聴け。
この度の件、確かに任務は達せられ無かった。
しかし、幸い、貴様ら任務に当たった者は少数だが帰還した。
其れは、正しく貴様の、率いる者としての功だ。
これからも、精進すると良い。」
主君の声が近くで聞こえ、一瞬だが私の肩に手を置かれたのだった。
私は、頭を上げた。
そして、主君の目を見た。
「以後、精進して参ります。」
私は深く頭を下げ、誓った。
生涯、この方に忠誠を誓おうと。
12/11/2023, 3:22:10 PM