n:意味を理解しているのか。
e:嗚呼、勿論。
w:賛成だ。
s:ハハハッ、面白い。私も賛成しよう。
e:盤上一致だな。
n:私は賛同していない。
s:まあ、良いじゃないか。
w:あなたなら、大丈夫だろう。
n:はぁ、分かった。賛同しよう。
e:よし、ならば決まりだ。
『我ら四人の名に誓い、
いつ如何なる時も、我らは何より民を最優先し、
己が滅びの道を辿ることに成ろうとも、
民の自由と平和を守ることを、此処に誓う。
N.E.W.S』
たまに、帰りたくなる。
此処より陸路で東へ進み、海を渡った先にある、
極東と呼ばれる、私の故郷に帰りたくなる。
今、この大陸の国は他国に侵攻している。
侵攻は周辺の国々を滅ぼし、飲み込むまで続く。
国々を完全に飲み込み、安定するまでは帰れない。
其れが達せられるのは、最低でも十五年後の事だろう。
其れまでは、帰れない。
この侵攻は、永き戦乱の世を終わらせる為のものだ。
幸い、この国の大王は人の痛みを知る人だ。
だからこそ、この永きの戦乱の世を終わらせようとして居られる。
私は、この国に恩がある。
その恩を返す為に…私は此処で生きている。
あと、何万人の人々が犠牲になるのだろうか。
この大陸に平和は、本当に訪れるのだろうか。
それらを考えるだけで、辛くなる。
大王や其れに尽力する人々は、この苦しみをどうやって……
乗り越えているのだろう。
愛しき、貴男。
貴男は、多くを背負う強き方。
貴男は、誰よりも人の上に立つ器を有する方。
でも、貴男だって心の拠り所が必要よ。
わたしと同じ人間なのだから……。
いい加減、あの方を、貴男の心の拠り所を、迎えに行きなさい。
貴男には、あの方が必要よ。
それは、わたしたちでは担えない。
悲しいけれど、あの方しか…貴男を救えない。
わたしたちに遠慮せず、あの方を迎えていいの。
だから、どうか、これからは泣かないで。
吐息は、白く色づく。
頬は赤らみ、より鮮明に肌の白さが目立つ。
毛糸の手袋に厚めのトレンチコート、ウールで出来たブーツ。
夜明けは遅く、日暮れは早い。
冬の銀世界は美しいが、寒さはキツい。
とくに、悴むと色々と…めんどうだ。
私の母は、そよ風みたいな人だった。
月白色の髪を一本の三つ編みにして、紫翠石みたいな綺麗な目をしていて、
白磁器みたいなすべすべした温かい肌で、よく私の頭を撫でてくれた。
私には、たくさんの兄弟姉妹がいたけど、皆、一人ひとりを見てくれた。
母は仕事が忙しくて、あまり家に居なかったけど、
私たちの面倒を見る人たちが、たくさんいて、その人たちが色々してくれた。
母は、よく私たち一人ひとりを抱きしめて『世界一の宝物』と言っていた。
それを言われると、私は嬉しくて、嬉しくてたまらなかった。
たくさんの愛情を注ぎ、時には諌め、よく褒めてくれる、そんな母だった。
時は経ち、旅立つ頃に成った。
その時、気が付いた。いや、ずっと…どころか、違和感が在った。
何故、そんなに若いのだろう…と。
何故、そんなに仕事を教えてくれないのだろう…と。
何故、容姿が全く似ていないのだろう…と。
そう、母と私では…どう考えても年齢的に親子では無いこと。
そして、私は後に知ることになる。
本来なら、赤子の頃に家族と共に秘密裏に処刑されていたことを。
当時処刑人だった、まだ子どもだった母が、私を匿い、戸籍を変え、
私が成人するまで育ててくれたことを。
そして、私の実の家族を処刑した人でも、在ったことを。
もし、あなたが最低な人だったら、激怒し、恨むことが出来たのに。
もし、あなたが沢山の愛情を注いでくれなかったら……。
あなたは、私の家族を殺した人。
そして、あなたは…誰がなんと言おうと、唯一の私の母だ。
血の繋がりは、無い。
でも、あなたが私に沢山の愛を注ぎ、育ててくれたは、何一つ違わぬ事実だ。
だから、私は…あなたを…母を…赦す。
だから、私は…これまで通りに母に接する、大好きな娘として。
『─親愛なるお母さまへ
本当のことを話してくれて、ありがとう。
これまでも、これからも、あなたのことが大好きな娘より』