名は体を表す。
多くの場合、本当だ。私自身、そうだった。私の名には、正直者という意味が込められている。
此れは、私の話しだが親から叱られる際に『その名に恥じぬように』と言われて育った。正直者で困ったことは無く、下の子たちにもよくそう諭した。名とは、願いが込められる。私の名は、両親からの最初の贈り物だった。だからこそ、名には愛着があり、とても誇りに思う。
私の妻も、又、正しく名を体で表したような人生を歩んだ人だった。
だからこそ、名は大切だと感じる。
私たちの子どもにも、いつか名の話しをする日が待ち遠しい。
貴女は、一向に私を見ない。
貴女に初めてプロポーズをしたのも、貴女に初めてダンスに誘い、踊ったのも僕だった。貴女と僕は年も近く、国は違ったが家同士の仲も良く、同じくらいの家柄だった。貴女に何度アプローチしても、貴女は目を伏せ微笑み、いつも同じ言葉を紡ぐ。「可愛い人ね。」と、一言だけ。
今では、貴女には婚姻した人が居る。その人のことを…心から愛していることを今まで見たことのない…幸せそうな表情が物語っていた。
貴女と一番仲が良かったのは、私のはずだったのに。愛する人が幸せになることは、嬉しいはずなのに…。
旦那さんが酷い人なら…、夫婦仲が悪かったら…、家同士の仲が悪かったら……良かったのに。
考えてしまった…、思ってしまった…、私が貴女を幸せにしたかった。と、
血の滲み出る努力を重ねたことも、どんなに苦しくても必死に生きた理由も、人生の全てが、貴女のとなりに並ぶだったことに気付いてしまった。
昔から、分かっていたはずなのに……。辛くて…、辛くて…、仕方無かった。
紅い薔薇、それは、私を象徴するものだった。
私たち兄妹は、それぞれを象徴する植物と色を成人すると与える風習がある。謂わば、この家にふさわしい人物と認められた証なのだ。
紅い薔薇の花言葉は、「I love you (あなたを愛しています)」「Love(愛)」「beauty(美)」「passion(情熱)」「romance(ロマンス)」
残念ながら、私には不釣り合い。私は、たしかに美しい。大抵の男は、微笑むだけで顔を紅くする。でも、情熱的でも無ければ、ロマンスなんて…ない。ただ、色目を使っているだけ…。そこには、愛なんて無い。
今日も私は愛情深く、妖艶な女を演じる。紅く美しい薔薇のように甘く、多くを惹き寄せる魅惑の薫りのする女を…。
それが、私の生き方…ずっと待っている、その時までの仮の姿…。
親愛なる貴女へ
わたしたちの愛しい娘よ、わたしたちの宝物よ、如何お過ごしでしょうか。
貴女とまた手紙ではあるけれど、つながりを持てることを嬉しく思います。
今でも貴女との思い出が 眼に浮かびます。貴女との別れほど、辛いものはありませんでした。
でも、それが貴女が決めた道でしたね。
もう憶えていないかもしれませんが、幼い頃の貴女は わたしたちを守るために、この道に進んでくれました。
逆らえば わたしたち家族が殺されることを勘づいていたように見えました。
あの時の貴女は わたしはこの道に進みたいと、この命を全うしたいと、言ってくれました。
貴女の聡く、優しい気遣いが、わたしたち家族を救ってくれていました。
最後になりますが、どんな貴女でも 紛れもなく大切な家族で わたしたちの愛しい娘です。
どうか、これからは、自分のために生きて下さいね。
貴女を愛する両親より
鳥に成りたい。鳥になって、大空に羽ばたきたい。