NoName

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1/9/2026, 9:08:12 PM

昼下がり、ビル群の合間にひっそりと浮かんでいた三日月。
頼りなくて、ひっかき傷みたいな白。
昼間に見える月って見つけたら少しだけ得した気がする。
三日月なら尚更。
と言っても見つけたところで何かが変わるわけでもなく、わざわざ立ち止まったりスマホを向けて写真を撮ったりはしないけど。
「あ、月」
信号待ちでちらりと見上げても、歩き出す頃にはその存在をすっかり忘れてる。

今日の私はあの昼間の月のように所在なく、僅かな輪郭でさえ消え入りそうだった。
その場の空気に馴染めているか。
正しく相槌を打てているか。
誰からも裁かれたくなくて背景に溶け込もうとした。
でも月にしてみればそんな自己投影など、どうでもいいこと。
昼だろうが夜だろうが、月には気を遣う相手も読むべき場の空気もない。
夜、あの頼りなかった「ひっかき傷」は、静かに輝き放ち始める。
誰のことも置き去りにしたまま月はただ独り、鮮やかなまでに澄み切っている。

三日月

1/8/2026, 1:34:02 PM


心に彩りのある人生を。
名前に「彩」の文字があるのは両親のそんな願いが込められているからなの、と彼女は照れくさそうに言った。
その名にふさわしく、彼女が笑えば世界は瞬時に色とりどりに染まっていく。
彼女は、人生に豊かな彩りを見出せる人だ。
眩しい笑顔を向けられた時、私はうまく反応できなかった。
引きつった口元、砂を噛んだような表情になっていただろうか。
私の名前にも「彩」の文字がある。
それなのに、いつから私の心はこんなにもカラーレスになってしまったんだろう。
色を取り戻せない。透明にもなれない。


色とりどり

1/7/2026, 11:38:25 AM

冬のささやかな贅沢。
こんもり積もった雪は湯気の向こうで静かに崩れた。
すくって口に入れると、あっという間に儚く溶ける。
わずかに舌の上に残ったのは辛味よりも甘味だった。
思わず顔がほころぶ。今夜は雪見鍋。
外から帰ってきた君の肩にも、少し雪が積もっている。
「あったまりなよ」と椀を差し出す。
外の雪は止む気配がなくこのまま積雪になるらしい。
明日は白雪チャーハンにしようか。
デザートはもちろん雪見だいふく。


1/6/2026, 12:41:09 PM

君と一緒にいても独り。
君はすぐ高い壁を作る。
でも内側から壁をぶっ壊すのも君。

君と一緒に


1/5/2026, 1:38:11 PM

冬の晴れた空は優しげな色合いをしている。
水色にもライトグレーにも見える空は低く広がり、降り注ぐ太陽光線も淡く控えめだ。
しかしその穏やかな眺めと裏腹に、外気はまるで研ぎ澄まされた刃物のように冷たい。
外に踏み出した瞬間、皮膚を切り付け肺を裂いていくような冷たさに思わず肩をすくめる。
この切れる感じを忘れないでおこうと思う。
冬の日、音は驚くほど遠くまで響く。
車の音も人の話し声もやけにクリアなのに、自分の思いはいつも言葉にならず、白い吐息だけが溶けていく。
冴え渡った空気は何か新しいことが始まる予感を生む。
世界が動き出そうとする前の静けさみたい。
でもまだ焦らなくていいんだ。皮膚の傷口はそのうち乾いて馴染んでいく。
冷たい風の中で一人で立つ。冬の晴れ間は痛みと優しさが同時に存在して澄み切っている。今はその調和に身をまかせてみる。冬景色の一部であればいい。

冬晴れ

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