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昼下がり、ビル群の合間にひっそりと浮かんでいた三日月。
頼りなくて、ひっかき傷みたいな白。
昼間に見える月って見つけたら少しだけ得した気がする。
三日月なら尚更。
と言っても見つけたところで何かが変わるわけでもなく、わざわざ立ち止まったりスマホを向けて写真を撮ったりはしないけど。
「あ、月」
信号待ちでちらりと見上げても、歩き出す頃にはその存在をすっかり忘れてる。

今日の私はあの昼間の月のように所在なく、僅かな輪郭でさえ消え入りそうだった。
その場の空気に馴染めているか。
正しく相槌を打てているか。
誰からも裁かれたくなくて背景に溶け込もうとした。
でも月にしてみればそんな自己投影など、どうでもいいこと。
昼だろうが夜だろうが、月には気を遣う相手も読むべき場の空気もない。
夜、あの頼りなかった「ひっかき傷」は、静かに輝き放ち始める。
誰のことも置き去りにしたまま月はただ独り、鮮やかなまでに澄み切っている。

三日月

1/9/2026, 9:08:12 PM