ねここ

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3/2/2025, 10:51:11 AM

【誰かしら?】

「さて、この犯人は誰かな〜?」

猫たちに晩ごはんを与えてから二時間ほど経った頃だった。
リモートワークの合間に休憩しようとキッチンへ向かうと、床に落ちていたのは、さっき猫たちに与えたごはんのパッケージ。
おかしい。お皿に移した後、ちゃんとゴミ箱に捨てたはずなのに——。

まさかと思い、ごはんの保管場所へ目を向ける。一食分、減っている。

これは、食いしん坊の仕業だろう。

私は食べ散らかされた袋をひらひらと振りながら、猫たち一匹ずつに尋ねてみた。もちろん、返事はない。
むしろ「またごはんをくれるの?」と言わんばかりに、袋に鼻を擦り付ける始末だ。

そんな中、一匹だけ妙にそっぽを向いている子がいた。
うちの猫の中で一番若く、食欲旺盛な男の子。
知らんぷりを貫いているけれど、その愛らしい口元には、ごはんの食べカスがしっかりとついている。

……もう、バレバレなんだけど。

あまりにも堂々とシラを切るその姿に、呆れを通り越して、思わず笑みがこぼれる。
とはいえ、食べ過ぎは体に良くない。

今日の彼のおやつは無し、だな。

3/2/2025, 10:08:05 AM

【芽吹きのとき】

冬はきらい。
寒いし、ごはんも水も冷たいし、ついでに人間の手も冷たいし。
あの冷たい手で頭や背中を撫でられると余計に寒くなるから冬はきらい。
ひとつだけ許せるのは、寒くなるとコタツが部屋に置かれること。
寒い冬もこのコタツの温もりがあるから乗り越えられる。
このつらい季節を乗り越えれば、草花が芽吹く暖かい春が来る。それまでしばらくは、このコタツの中で丸くなろう。

2/23/2025, 10:45:37 AM

【魔法】

ふと考えることがある。

もしも魔法が使えたなら、少しの間でいいからうちの子を人間の姿にしてみたい、と。

私の膝の上で、すぅすぅと安らかな寝息をたてて眠る猫を撫でながら妄想する。
暴れん坊でやんちゃだけど、時々ひどく甘えん坊になる可愛い男の子。
今は一歳半。人間年齢に換算するとちょうど二十歳くらいだ。外国の猫種だから、もしも人間の姿になったとしたらやはり外国人っぽくなるのだろうか? 体も大きいから、きっと背も高いんだろうな。
なんてあり得ない妄想を繰り広げていたけれど、二十歳になる青年が私の膝を枕にして寝ているところを想像して、なんだか妙な気分になった。
撫でる手がピタリと止まると、眠っていた猫が目を覚まして続きを促すように私の手をペロペロと舐める。
ごめんね、と呟きながら再び頭を撫でてあげると満足そうに喉を鳴らした。

やっぱり魔法なんて使えなくていい。
だって人間にはこの音は出せない。聴いてるだけで癒される、このゴロゴロ音を出せるのは猫だけ。
それに私は男の人の髪を撫でるより、シルクのような手触りの猫の頭を撫でる方が幸せなのだ。

2/22/2025, 12:08:08 PM

【君と見た虹】

パラパラという窓の外から聴こえてくる微かな音で目を覚ました。
長時間寝ていた体を、ぐぅっと伸ばして窓際へと飛び移る。ガラスに打ちつける雨粒を見て天候が一変したことを知った。
寝る前まではあんなに晴れていたのに、雨足は徐々に強くなっていく。
今でこそ、こうして窓辺に座ってのんきに欠伸ができるけれど、三年ほど前までは自分だってあちら側にいたのだ。
今の飼い主に拾われるまでは、外の世界で生きてきたのだから。

外にいた頃はごはんを自分で確保しないといけないのも辛かったけれど、それに加えて突然の雨に襲われるというのが、ひどく体力を奪っていった。
運が良ければ屋根のあるところで雨宿りができたが、他の猫のナワバリではそうもいかない。
冷たい雨は体を冷やし、生死の境をさまよったのも一度や二度ではない。

でも今は違う。
おなかが空いたタイミングでごはんが出てくるし、おうちの中は暖かくて、もう雨に当たることもない。

「どうしたの? お外が恋しい?」

窓から外を眺めていると、そうやって飼い主が問いかけてくるけれど、その言葉を否定するように飼い主の顔に頭を押し付ける。
違うよ。今が幸せなの。
外にいた頃は空を見上げる余裕すらなかったのに、今は違う。
だって、ほら。

「あ、通り雨だったみたいだね〜。虹が出てる!」

あんなに冷たくて暗かった空に、七色の光が差すなんて知ることができたのは君がこのおうちに連れてきてくれたおかげだから。

2/22/2025, 8:08:51 AM

【夜空を駆ける】

会社の壁に掛かっている時計に目を向けて、その針が指し示す時刻を確認すると、長い溜め息を吐き出した。
とっくに定時は過ぎているが、いつまで経っても仕事が終わる気配はない。
人手不足、機械トラブル、理由は色々とあるけれど、誰も責める事はできない。みんな一秒でも速く残業を終わらせようと、一心不乱にキーボードを叩く。
私も負けじとパソコンのモニターを睨むものの、正直に言って頭の中は自宅で待っている猫のことでいっぱいだ。
自動給餌器があるので食事には困っていないだろうが、甘えん坊で鳴き虫なあの子は、いつもの時間になっても帰ってこない私を心配しているかもしれない。

やっとの思いで会社を出る頃には終電も無くなっていた。
不幸中の幸いと言えるのは、会社から自宅まではなんとか歩いて帰れる距離だということ。駅で言うと二つ分ほどだが、疲労困憊の今の状態では途方もない道のりだった。

こんな時、空を飛べたらいいのに。
一気に空を駆けて、あっという間にあの子のところへ帰れるのに。

そんな妄想をしてしまうほどに疲れていたが、家で待っているあの子の為に、重い足取りをほんの少しだけ速めることにした。

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