ねここ

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【夜空を駆ける】

会社の壁に掛かっている時計に目を向けて、その針が指し示す時刻を確認すると、長い溜め息を吐き出した。
とっくに定時は過ぎているが、いつまで経っても仕事が終わる気配はない。
人手不足、機械トラブル、理由は色々とあるけれど、誰も責める事はできない。みんな一秒でも速く残業を終わらせようと、一心不乱にキーボードを叩く。
私も負けじとパソコンのモニターを睨むものの、正直に言って頭の中は自宅で待っている猫のことでいっぱいだ。
自動給餌器があるので食事には困っていないだろうが、甘えん坊で鳴き虫なあの子は、いつもの時間になっても帰ってこない私を心配しているかもしれない。

やっとの思いで会社を出る頃には終電も無くなっていた。
不幸中の幸いと言えるのは、会社から自宅まではなんとか歩いて帰れる距離だということ。駅で言うと二つ分ほどだが、疲労困憊の今の状態では途方もない道のりだった。

こんな時、空を飛べたらいいのに。
一気に空を駆けて、あっという間にあの子のところへ帰れるのに。

そんな妄想をしてしまうほどに疲れていたが、家で待っているあの子の為に、重い足取りをほんの少しだけ速めることにした。

2/22/2025, 8:08:51 AM