冬とは、包むようにして寂しさを纏わせてくるものだ。
白銀に塗りたくられた桜吹雪が鎌鼬のように舞い散ると共に、見つめたトンネルの先から足早に向かってくるようで、私には少しそれがせっかちに思えてしまった。
たださんさんと上の空から激励を発す夏とも違い、枯れ葉の刻を信じて、ただこちらを見ている秋とも違う。
誰かを温めたことの無い、乾ききってしまった悲しみを積もらせるその者を見て、私は笑うこともせず、ただそれに触れるのだ。
その手が愛せなかった悲しみが、自分自身だけは愛せるようにと。
君はちっとも、可愛くない子供でしたよ。生糸みたいな、繊細なくせして頑丈で、その織物は黄金に輝く玉虫みたいだ。私の言うことをなんでも聞いて、つまらなかった。そんな貴方を私は愛した覚えは無いのです。行ってらっしゃい。次帰ってくるのなら、骨壺を送って下さいね。愛しき坊っちゃん。
無邪気、無邪気。目に入るは、そんな言葉である。短く、不鮮明な光を纏い舞うような、戯れに生きている。しかし、あと2,3年もしてしまえば嫌に小賢しくなるのだ。刹那を生きる者にとって、なんのために生まれたかなどその身一つ程度の重さしかないのだろうか。路地に打ち捨てられた段ボールの中をよじ登ろうとするその者を見て、スポットライトにも外れへたり込むのが情けなく思えた。私が一歩を踏んだとき、お前は三歩進むのだろうか。どこへ消えるか、私には見当も付かない。
「なんのために」
言葉を巡らせるのは、
いや、そう思うのは後で良い。
そう決心し、酷く汚れた段ボールを小脇に抱えた。
始めから、この心は嘘だったのかもしれない。昨日までのことを小さな額縁に納められた写真に見るような、アナウンスと共に閉じ行くドアに映るその目を知って、そう思えてしまった。その写真からも引き剥がされるように、音を立て、列車は動き始める。雲から染み出す青空に緑が広がるばかりで何も無い故郷を無感情に流し映す窓に、今までの景色が蘇る。ぽたりと、雫が足下に落ちる。思い出とともに飛び去っていく事無く、静かに、縋るように滴り落ちていた。
せっかく、向こうへ行けるというのに
何度もその言葉が木魂し、波紋を広げた。しかし、その裏を返して、またと、垂れ落ちる。
もう一度、貴方に会いたかった。