【世界に一つだけ】
ウチは《世界に一つだけ屋》。
扱う品物は文字通り、世界に二つと無いまさに逸品。
一品だけにな。
今日はお客様が実物を見てからご購入を検討したいとのことで、久々の訪問販売だ。
いつもより手間はかかるが、お客様のためのサービスは惜しまない。
なんせお客様も世界に一人だけ、かけがえのない存在だからな!
今回のお客様はアメリカにご在住。
船旅になるが、他のお客様との兼ね合いもあり、いくつか国を経由する長旅だ。
中継の国に着くと、俺はまず飯屋へと向かった。
その土地の飯は良い話の種になるから、商売に必須だと俺は思う。
いつかこの国で本腰入れて商売するかもだし、旅の噺にしてもいいわな。
何より、腹が減ってはなんとやらだ。
「いらっしゃい!好きな席に座りな!」
店に入ると、活気の良い歓迎を受けた。こんな気持ちの良い接客を見習うべきだな――
なんて職業病か、と考えていると、聞き捨てならない会話が耳に入ってきた。
「アメリカ北部ついには奴隷を解放」
今話題のアメリカ南北戦争。
今回の旅の最終目標だが――
なんてこった。それじゃあ今回の商談はチャラじゃないか。
ゴタゴタに巻き込まれるのだけはゴメンだ。
俺の売る奴隷が《世界に一つだけ》の大事な命であるように、俺の命も《世界で一つだけ》な尊い命なのだから。
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※思想的な意図はございません
※悪いやつを書きたかっただけなんです
【胸の鼓動】
あるところに、不死の男がいた。
心臓を突かれても、毒を盛られても、海に沈められても、男は必ず生還した。
彼の長い人生で培われた頭脳や経験は何物にも代えがたく、歴史研究家や哲学者をはじめ、多くの業界人が彼と親交を深めている。
彼と関わった人は皆、口を揃えこう語る。
彼はなんでも知っている。
彼に怖いものはない。
話は変わるが、彼は“不死”であって“不老”ではない。
彼にとって唯一不明であるのは《老死の可能性》であり、彼は老いを恐れていた。
彼が老化に危機感を抱き始めたのは、最近のことではない。
彼は生まれたときから周りと同じように成長し、周りと同じように老いを経験してきた。
百年前の彼は、どうやら老死だけは避けられないのだと、そう思っていた。
しかし、現実は異なる。
どれだけ歳をとっても、彼は亡くならなかった。
“不死”は“不死”だったのである。
繰り返すが、彼にとって唯一不明なのが《老死の可能性》であり、彼は老化を恐れている。
身体だけが歳を重ね、年々自由が効かなくなっている中で、老死出来るのかだけが分からない。
死ねないまま身体だけが死んでいくのが、彼には堪らなく恐ろしい。
今も続く胸の鼓動を、止めたくて仕方がない。
【きらめき】
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【心の灯火】
私はさすらいの人魂。
思念のみ備わった火、言うなれば《心の灯火》です。
いつもはお客様が絶えないのですが、今日は台風でお越しにならず、消火されるゆえ外にも出れません。
そこでこうしてスマホにお邪魔し、あなたで暇を潰そうというわけなのです。
なに、悪戯をしようというのではありません。
少し昔話を聞いてくれればと思います――
――昔々あるところに、しがない給仕がおりました。
その給仕は尽くすことが何よりの幸せ。
とても満たされた日々を送っていたのです――
ある日までは。
その日のお客様は、酒癖が悪い方でございました。
随分と酔っ払っているようでしたので、お冷を差し上げたところ、
「水はいらん。酒を持ってこい」
と激昂し、持っていたライターで給仕に火をつけたのです。
給仕についた火はあっという間に店全体に燃え広がり、
それはそれは悲惨な現場となったようでございます。
給仕の怨念は火に宿り、今日も犯人を探し彷徨っております…
ほら、今はあなたの後ろに――
どうですか、少し怖かったでしょう。
こうして人間をからかうのが、今の生きがいなのでございます。
「悪戯しないって言っただろ」って?
すみません、そこまで含めて、悪戯でございました。
――私?
私は給仕とは無関係ですし、ただの作り話ですよ。
これで安心して眠れますね。
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p.s――
このお題がお盆に来てたら、最高でございました。
【開けないLINE】
LINEどころかスマホすら開けないわ
や る こ と 多 す ぎ \(^o^)/