結呑

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【世界に一つだけ】


ウチは《世界に一つだけ屋》。
扱う品物は文字通り、世界に二つと無いまさに逸品。
一品だけにな。

今日はお客様が実物を見てからご購入を検討したいとのことで、久々の訪問販売だ。

いつもより手間はかかるが、お客様のためのサービスは惜しまない。
なんせお客様も世界に一人だけ、かけがえのない存在だからな!

今回のお客様はアメリカにご在住。
船旅になるが、他のお客様との兼ね合いもあり、いくつか国を経由する長旅だ。

中継の国に着くと、俺はまず飯屋へと向かった。
その土地の飯は良い話の種になるから、商売に必須だと俺は思う。
いつかこの国で本腰入れて商売するかもだし、旅の噺にしてもいいわな。
何より、腹が減ってはなんとやらだ。

「いらっしゃい!好きな席に座りな!」
店に入ると、活気の良い歓迎を受けた。こんな気持ちの良い接客を見習うべきだな――
なんて職業病か、と考えていると、聞き捨てならない会話が耳に入ってきた。

「アメリカ北部ついには奴隷を解放」


今話題のアメリカ南北戦争。
今回の旅の最終目標だが――

なんてこった。それじゃあ今回の商談はチャラじゃないか。

ゴタゴタに巻き込まれるのだけはゴメンだ。
俺の売る奴隷が《世界に一つだけ》の大事な命であるように、俺の命も《世界で一つだけ》な尊い命なのだから。

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※思想的な意図はございません
※悪いやつを書きたかっただけなんです

9/9/2024, 11:16:04 AM