結呑

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【心の灯火】


私はさすらいの人魂。
思念のみ備わった火、言うなれば《心の灯火》です。
いつもはお客様が絶えないのですが、今日は台風でお越しにならず、消火されるゆえ外にも出れません。
そこでこうしてスマホにお邪魔し、あなたで暇を潰そうというわけなのです。
なに、悪戯をしようというのではありません。
少し昔話を聞いてくれればと思います――

――昔々あるところに、しがない給仕がおりました。
その給仕は尽くすことが何よりの幸せ。
とても満たされた日々を送っていたのです――
ある日までは。
その日のお客様は、酒癖が悪い方でございました。
随分と酔っ払っているようでしたので、お冷を差し上げたところ、
「水はいらん。酒を持ってこい」
と激昂し、持っていたライターで給仕に火をつけたのです。
給仕についた火はあっという間に店全体に燃え広がり、
それはそれは悲惨な現場となったようでございます。
給仕の怨念は火に宿り、今日も犯人を探し彷徨っております…
ほら、今はあなたの後ろに――

どうですか、少し怖かったでしょう。
こうして人間をからかうのが、今の生きがいなのでございます。
「悪戯しないって言っただろ」って?
すみません、そこまで含めて、悪戯でございました。
――私?
私は給仕とは無関係ですし、ただの作り話ですよ。
これで安心して眠れますね。



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p.s――
  このお題がお盆に来てたら、最高でございました。

9/2/2024, 12:39:30 PM