空に向かって
空に向かって放るもの
声 石 風船 シャボン玉 鳥 指輪
紙飛行機 高い高いの子供 唾 コイン
こうしてみると 指輪 唾 以外はなんだか
明るいもののような気がする
声 も 雄叫び や 嘆き や 夢を語る
告白 色々ある
空は色々なものを受け止めているんだなあ
たまには空の愚痴も聞いてあげなきゃね
またね!
去年、音楽イベント
MEET THE WORLD BEAT 2024 に
参加。
全ての出演、歌唱が終わり、
会場を立ち去る来場者。
そこで流れたのが、イベント主催者の
大阪のラジオ局、FM802の、
春のACCESS! キャンペーンソング。
毎年別のアーティストが作詞作曲、
様々なアーティストが歌唱に参加する。
2024年は、SUPER BEAVERの柳沢亮太(G)が書き下ろした「はなむけ」。
サビの歌詞が刺さった。
「おはよう
いってらっしゃい
またね またね
好きなことを 好きでいてね
嫌でも嫌でもどうしても嫌なことだってある世界で
あなたは何を選んでいくだろう」
今日はありがとうね
また明日から頑張ってね
またミザワビに来てね
音楽を好きでいてね
そんなメッセージを受け取った。
フェスやライブの後って、祭りが終わった
少しの寂しさをいつも感じるのだけれど、
その時は、やさしく送り出されている感じがして、とても良かった。
今年、2025年のキャンペーンソングは、
4月7日月曜日の7時台で初オンエア予定だそう。
楽しみ。
小さな幸せ
「♪ バラに落ちた雨粒 子猫のひげ
輝く銅のケトル 暖かいウールミトン
紐で縛った茶色の紙包み
みんな大好き My favorite things…」
ミナミは、
映画「サウンド・オブ・ミュージック」の
名曲My favorite thingsを
呟きながら、3階の女子トイレの
個室に籠っている。外は雨。
季節外れのザーザー降りだ。
カタカタと震えが止まらない。
なんなら涙まで浮かんできそうだ。
「♪ 犬にかまれた時
蜂に刺された時
悲しくなった時
ひたすら大好きなものを思い出すの
そしたらそんなに悪い気分じゃ
なくなるわ…」
思い出せ、わたしの大好きなもの、
私を今アゲてくれる小さな幸せ、
My favorite things!
ミナミは仕事でミスをした。
それが何かはここでは触れまい。
とにかくいまのミナミには、
緊急避難的に小さな幸せが必要だった。
「い、いつもは買わない高めのチョコ
レースたっぷり女子力満載ハンカチ
とろける甘い推しの声
みんな大好き My favorite things…」
お、良い感じだ。
いつしかミナミは、歌いながら
自分のオフィスへ足を運んでいた。
「♪雨に降られた時
ゴキに遭遇した時
辛いいまこの時
ひたすら大好きなものを思い出すの
そしたらそんなに悪い気分じゃ
なくなるわ…!」
そして奇異の目で見られながら、
隣のデスクの先輩に、ひれ伏しながら
あるものを渡した。
「先輩、すみませんでした!わ、悪気があったわけじゃないんです不可抗力で…」
その手にあるのは、先輩の大好きな
ゆるかわキャラクターのアクスタ。
無惨にも台座からもぎ取られたものを
なんとか補修したのだった。
「…何それ」
先輩は顔にハテナ?をいっぱい浮かべながら
そう言った。
「はっ!これ先輩の推しキャラじゃあ」
「違うわよ、姪っ子に押し付けられて
飾ってるだけ。あ、だから?
よくこのキャラのグッズくれるの?」
先輩アクスタを受け取りながら聞いた。
「あ、あたしもう先輩に殺されるかと
思って」
ミナミは早とちりにきづき、
顔を赤くしながらもじもじした。
「何言ってんのよ、
もし推しキャラだとしても殺さないわよ、
さあ早く仕事仕事!」
よ、良かったあ…。
雨の上がった窓の外で、幻のマリア先生が、
ニッコリ笑った気がした。
七色
少年にはちゃんとした名前があった。
しかし周りの人々は少年をこう呼んだ。
「ナナ様」と。
「ナナ様っ、早う服を!わたくしが
叱られてしまいますっ!」
「そんなに服が着たければ、
お主が着ればよい!」
ナナ様と呼ばれた少年は、
窓のない狭い部屋を、半裸で
乾かしきれていない髪を振り乱し走り回る。
教育係の小太りの女は、ドスドスと
音を立てながら追いかけ、
なんとか服を着せた。
ランクの低い糸だが、絹の服だ。
教育係は、少年の髪と服をざっと整えると、
額に青筋を立てながら部屋を出た。
今日こそ、今日こそお暇(いとま)を
願い出ようと思いながら。
1人部屋に残されたナナは、
ふと部屋の隅の黒い点に目を留めた。
そっと近寄ると、それは点ではなく、
蜘蛛であった。
「お前は蜘蛛だな。御本で見たことがある。
巣をかけて自分より弱い虫を捕らえて
喰うのだろう?しかし巣はないな…。
お前も1人か?」
蜘蛛とナナは、しばしお互い黄金(きん)色の瞳で見つめあった。
蜘蛛はスッと物陰に隠れてしまった。
「…また、会おう」
ナナは呼びかけた。
1週間ののち、別室で新しい教育係の男が、
書類を眺めていた。
書類を置き、顔をしかめ、
フーッと息を吐いた。
「ナナ様か…。空に浮かぶ虹のようには
決して生きられないのに。
なんなら雨が上がれば消えてしまう
運命(さだめ)なのに、
なんだって先帝はこんな名前を…」
彼は独りごちた。
書類には、「〇〇〇〇院 七色 なないろ」
とナナの本名が書かれていた。
「先帝の後落胤(ごらくいん)七色様」
である。
彼がのちの王朝の始祖になることは、
また別の物語である。
*後落胤…身分の高い男性が正妻以外の女性に生ませた子どものこと
もう二度と
「もう二度と、君を離したりしない!
たとえこの命果てようとも…!」
「あなた…!」
はー、だる。
久々にダンナに誘われての
映画だってのに、私は
はちゃめちゃダイハード的
ベタハリウッド映画って言ったのに
旦那のセレクトは激甘ラブストーリー。
センスないよな、こういうところ。
そう思いながらダンナの横顔を盗み見る。
ダンナはポップコーンを口に運ぶ手を止め、
口をあんぐり開けたまま涙ぐんでいた。
逆にどうしてここで泣ける?
こんなセリフ令和にヤバくない?
いい人なんだけどね。
「いやー、良かったね!特にもう二度と、
ってセリフのとこ!」
映画の後のかつてのいつものコース、
喫茶店での感想大会。
硬めのプリンが心地よい。
「ほんとに僕もミツコのことを…、
って思ったよ。…で、
ごめん遅くなったけど、先月は急に仕事入ったたろ?33歳誕生日おめでとう、ミツコ!」
途中から急に早口になるダンナ、
厨房から花火のついたデザートプレート、
徐々に湧き起こるバースデーソングの合唱。
「…ありがとう」
って言うしか、ないじゃない。
こういうの苦手なんだけどな。
「はー、良かった、ミツコに喜んでもらえて。…グスッ、
もう二度と君を離したりしない、
たとえこの命果てようとも!」
周囲の客のバースデーソングが感極まる。
幸せな夫婦ののリスタートだ。
おめでとう、ミツコ。