堕天
言葉の無い
この静けさは
狂気
私は溺れて
息ができない
この暗闇は
毒
私は蝕まれ
視力をなくす
光
一筋の光
こちらへおいで と
息ができずとも
目は見えずとも
肌を焼くほどの光
篝火と羽虫
炎に身を投じる 羽を持つもののように
それが絶望でも
私には それが唯一の救い
本来なら
涙が流れないといけない
そんな夜なのに
全ての感情に蓋をして
ただ雨に打たれている
私にかけるはずだった愛情を
全部持ってあなたは行ってしまった
あなたがくれたハンカチも
この夜には役に立たず
手の中に握り込んで乾いている
星は遠く
あなたはもっと遠く
私はこの夜に一人取り残されて
皆んなは明日に行ってしまって
ただ雨が降る
突然の訪問者
闇
昔から怖かった
闇そのものより
日常の端がめくれてのぞく闇が
カーテンの引っ掛かり
襖の惜しい閉め方
布団からはみ出た足
いつもにこにこ優しい人が
小声で囁く毒のような
闇がそこにはあった
その闇から細い腕が出てきて
私の足を掴んで
本当の闇へ攫ってゆく
幻想
私は怖い
遠い国の戦争もだが
日常の隣に確かに存在する
突然の訪問者
それは悪意であり
無知であり
哀しみであり
無関心の顔をした
人間だ
私の日記帳は、黒い愛で一杯。
憎んでいるけど愛したい。
傷つくけど愛されたい。
墓場まで持ってゆく、この想い。
「ほんっと腹が立つ!あのクソジジイ!」
そう毒づく姉に、僕は、幾度目かの
「そうだね、大変だね」を繰り返す。
姉は今、双子の子を連れて
実家に戻っている。
別居中。
両親と暮らしているわけだが、
特に父親が別居中の旦那を彷彿とさせて
苛々するらしい。知らんがな。
「なんか男の嫌なところを見すぎたわ。
アンタもそうなるのかしら」
いや、そうなって疎遠になってくれた方が
愚痴も聞かないで済む、と言いたくなって
飲み込んだ。
と同時に、旦那と父親が
イコールで見えるのは、姉の問題では?と
言うのも飲み込む。
父親と姉は、
昔から折り合いが悪かったとはいえ、
嫌われる父親は可哀想だ。
やるせない。
小さな頃から、お互いだけを
見て育ってきた。僕らきょうだいも双子。
向かい合って、鏡の真似っこをして
よく笑いをとった。
あの頃から、遠く遠くにきてしまった。
家族はいつも一緒、仲良し、も
幻想に見える。
「ねえ聞いてんの?こないだなんかもさあ」
はいはい聞いてますよ、と言いながら、
今日するはずだったエモい喫茶店巡りの
メニューを思い浮かべる。
メロンクリームソーダ、真っ赤なチェリー。
今度いつ食べに行こうかな。
ヨルとこはく
穴が空いていた ちょっとした隙間
満たされていたかった 答が見つからない
ひどく苦しかった 一瞬満たされた後
一層罪悪感が募って仕方なかった
ヨルはひとりぼっち
いつも人を傷つけて
その倍傷ついた身体引きずって
全てを蔑みながら
四角いコンクリートの部屋
過去に埋もれていた
こはくは2人ぼっち
青い猫が友達
話す代わりに微笑んで
全てに背を向けている
二度と傷つきたくなかったから
閉じた輪の中で 仮面の下
ちぎれそうな心 繋ぎ止めて
爆発しそうな思い 服の下 押し込んで
いつも悲しかった とても苦しかった
背を向け合い泣いていた
真夜中 音の洪水に巻き込まれ
ふたりはめぐりあった
それが何か わからないまま
そしてある日 二人は夢を見た
海へ行く夢
次の日二人は 汚れた川を下って 海に出た
アスファルトの大地は終わって
打ち寄せる波 素足浸して
溶け合う空と海 目を凝らした
生まれたての子供のように
セカイの広さに 驚いた
ヨルとこはく まっすぐに見つめ
脱ぎ捨てた思いを
ビンに詰めて流した
生まれたての太陽から
輝く火をもらって
二人は裸足のまま歩き続けた
ヨルとこはく 二人はもう逃げ出さない
全ての扉開け放って 繋いだ手と手離さずに
*ヨル、こはく=人名