本来なら
涙が流れないといけない
そんな夜なのに
全ての感情に蓋をして
ただ雨に打たれている
私にかけるはずだった愛情を
全部持ってあなたは行ってしまった
あなたがくれたハンカチも
この夜には役に立たず
手の中に握り込んで乾いている
星は遠く
あなたはもっと遠く
私はこの夜に一人取り残されて
皆んなは明日に行ってしまって
ただ雨が降る
突然の訪問者
闇
昔から怖かった
闇そのものより
日常の端がめくれてのぞく闇が
カーテンの引っ掛かり
襖の惜しい閉め方
布団からはみ出た足
いつもにこにこ優しい人が
小声で囁く毒のような
闇がそこにはあった
その闇から細い腕が出てきて
私の足を掴んで
本当の闇へ攫ってゆく
幻想
私は怖い
遠い国の戦争もだが
日常の隣に確かに存在する
突然の訪問者
それは悪意であり
無知であり
哀しみであり
無関心の顔をした
人間だ
8/28/2023, 1:00:13 PM