「ほんっと腹が立つ!あのクソジジイ!」
そう毒づく姉に、僕は、幾度目かの
「そうだね、大変だね」を繰り返す。
姉は今、双子の子を連れて
実家に戻っている。
別居中。
両親と暮らしているわけだが、
特に父親が別居中の旦那を彷彿とさせて
苛々するらしい。知らんがな。
「なんか男の嫌なところを見すぎたわ。
アンタもそうなるのかしら」
いや、そうなって疎遠になってくれた方が
愚痴も聞かないで済む、と言いたくなって
飲み込んだ。
と同時に、旦那と父親が
イコールで見えるのは、姉の問題では?と
言うのも飲み込む。
父親と姉は、
昔から折り合いが悪かったとはいえ、
嫌われる父親は可哀想だ。
やるせない。
小さな頃から、お互いだけを
見て育ってきた。僕らきょうだいも双子。
向かい合って、鏡の真似っこをして
よく笑いをとった。
あの頃から、遠く遠くにきてしまった。
家族はいつも一緒、仲良し、も
幻想に見える。
「ねえ聞いてんの?こないだなんかもさあ」
はいはい聞いてますよ、と言いながら、
今日するはずだったエモい喫茶店巡りの
メニューを思い浮かべる。
メロンクリームソーダ、真っ赤なチェリー。
今度いつ食べに行こうかな。
ヨルとこはく
穴が空いていた ちょっとした隙間
満たされていたかった 答が見つからない
ひどく苦しかった 一瞬満たされた後
一層罪悪感が募って仕方なかった
ヨルはひとりぼっち
いつも人を傷つけて
その倍傷ついた身体引きずって
全てを蔑みながら
四角いコンクリートの部屋
過去に埋もれていた
こはくは2人ぼっち
青い猫が友達
話す代わりに微笑んで
全てに背を向けている
二度と傷つきたくなかったから
閉じた輪の中で 仮面の下
ちぎれそうな心 繋ぎ止めて
爆発しそうな思い 服の下 押し込んで
いつも悲しかった とても苦しかった
背を向け合い泣いていた
真夜中 音の洪水に巻き込まれ
ふたりはめぐりあった
それが何か わからないまま
そしてある日 二人は夢を見た
海へ行く夢
次の日二人は 汚れた川を下って 海に出た
アスファルトの大地は終わって
打ち寄せる波 素足浸して
溶け合う空と海 目を凝らした
生まれたての子供のように
セカイの広さに 驚いた
ヨルとこはく まっすぐに見つめ
脱ぎ捨てた思いを
ビンに詰めて流した
生まれたての太陽から
輝く火をもらって
二人は裸足のまま歩き続けた
ヨルとこはく 二人はもう逃げ出さない
全ての扉開け放って 繋いだ手と手離さずに
*ヨル、こはく=人名
裏返しの態度
裏返しになった手紙、メモ
裏返しの服
それまでとは違う不穏な空気が漂う。
「それで、どう言うことなんだ?」
平静を装った自分の声。
しかし語尾が震えていた。
「ですから、奥様は浮気をー」
探偵事務所の女性調査員が続ける。
私は声にならない声をあげて顔を覆った。
足元の大地が崩れ落ちる感覚。
立っていられない。
裏返しの写真。
妻の傍らで笑っている男は、義弟だった。
誰がどう見ても、
普通の兄弟の写真ではない。
知ってしまった。私はどうすればいい。
どうすれば…
大いなる冒険の前に
さよならを言う前に
もう一度飲もう
語り明かそう
ハグをしよう
この夜に
魚のように
過去を漂わず
鳥のように
未来に進もう
猫の目。
くるくる変わる空模様のように、
ご機嫌を映し出す。
まんまるで可愛い上目遣い。
お尻ポンポンされてうっとり閉じた目。
外から来たお客さんに興味津々な目。
おこな荒んだ目。
は?あんた誰よ?けっ、
みたいなやさぐれた目。
嫌いな家族にとっ捕まって絶望的な目。
あれ、不機嫌が多い?
うちのにゃんこは世界一!
*昨日のお題、鏡は、
「不思議の国のアリス」の続編である
「鏡の国のアリス」を下敷きに書いたつもり
なんですが、分かりにくかったですよね。
反省。