神様だけが知っている。
私の願い
私の過去
私の未来
私の怒り
私の悲しみ
私の喜び
私の迷い
私の…
神様は全て見ている。
全て…知っている。
この道の先に、
あなたが待っているとしたら。
若くして逝ったあなた。
天寿を全うして逝ったあなた。
私と入れ違いで逝ったあなた。
私が生まれるより先に逝ったあなた。
いつか訪れる死も、怖くは無い。
思わず顔がほころぶ春の日差し。
相手を屈服させるかのような夏の日差し。
これからの厳しい季節を予感させる秋の日差し。
そして、厚い雲から弱々しく地表を照らす、冬の日差し。
それは母に似ていた。
幼い私に、周囲の人々への気配り、心遣いを説いてみせるような母。
当時はまだそれらを受け取る側の私だったと気付いたのは、後年だった。
国語のテストで「四季」の漢字が書けずに、「四委」と書いて、99点を取った時、
母は褒めずに嘲笑った。
そんな漢字が何故書けないの?と。
母はできない私を責め、
私もできない自分を責めた。
そんな母は嫌いだった。
同時に愛していた。
正確には愛して欲しかった。母に。
私はそれらを得ることができないまま、
母は死んだ。
冬の日差しに似た、時折見せた母の優しさ。
風呂上がり、母が私の髪を乾かす時、
ドライヤーの温風や冷風を、戯れに
私のパジャマの襟元から差し入れ、
くすぐったがって私は笑う。
母も一緒に笑う。
思い出は数少ないが確かにあったのだ。
冬の日差しに似た、母の不器用な愛だった。
窓越しに見えるのは、月から見た地球の姿。
ここは月面の、廃棄寸前の街。
月面開発が行われたのは、とうの昔の話。
今は金が無く、地球にも帰れず、
どこにも行く宛のない訳あり者たちの街。
かつては俺も、腕ききの科学者だった。
今じゃ安酒で酔い潰れる毎日。
安酒では悪夢ばかりで、
まともな夢も見れない。
夢…。科学の最先端の月で、
金も、地位も名誉も全て手に入る、
夢。
全てを捨ててきた地球。
今じゃ逆に俺を見下ろしてる。
夢。
今日街角のタロット占い師をひやかしたら、
良いカードを引いた。
今夜は少しでもまともな夢が見られるといいな…。
「私にとって
運命の赤い糸で結ばれた相手は
ただ1人 あなただけ」
娘の時分に読んだ、ロマンス小説ばりの
そんなセリフを言えるのは、
現実に何人いるだろう。
結婚した人の六割は、
離婚を考えたことがあるという。
私も例に漏れずその何割かの1人。
ちくちくとしたモラハラ風嫌味。
家事も育児も、私がギリギリ耐えれるだけの負荷をかけてくる。
絶対離婚してやる!という決定打は無い。
今、私の赤い糸の片方は、
ふらふらと風に吹かれている。
誰がそれを捕まえてくれるのか、なんて、
白馬の王子様を私は、
こんなオバサンになっても、
夢見ているらしい。
今宵は昔読んだ小説でも引っ張り出して、 ハラハラドキドキしてみるか。
夫とはとうに別寝室。
誰に気兼ねするでもなく。
「運命の赤い糸切れてる時間」を楽しもう。