その向こうには何があるのか。
消えかけの虹。
校区境の踏切。
薄暗い鳥居。
そして入道雲。
自転車をがしゃがしゃ漕ぐ。
朝、入道雲はもう空にある。
見下ろされながら時間と戦う。
横断歩道で待ちながら一息ついていると、
青信号を待ちきれない生徒たちが
次々と追い抜いていく。
慌てて真似する。
やっと着いた自転車置き場から飛び出す。
校門をくぐる。
帰宅部の私の自主練のような、
毎朝の儀式。
その向こうに何があるのか。
その旅はいつも途中で終わり。
始業の鐘が雲の峰に響く。
夏 夏は夜
夜、花火。
記憶の中の花火を見ている自分は、
決して独りではない。
友人と、恋人と、家族と。
友人だった人が、恋人となり、家族となる。
それをずっと花火は見ていた。
一瞬で花開き、散る花火は
連綿と続くそれを見ていた。
一瞬と 永遠と
夏はその繰り返し。
ここではないどこか。
ココデハナイドコカ。
どこでもないここか?
どこでもあるいまか。
かえりたい
かえりたい
どこかへ
かえりたい
春 北国に帰る渡り鳥
秋 産卵のため川を遡上する鮭
彼らを見るたび強烈に思う
かえりたい
どこへ?
渦の中心
始まりの螺旋
銀河の
排水溝の
その向こう
はじまりのばしょへ
はじまって、おわる ばしょへ。
それはいつだろう。君と最後に会った日。
私たちは、いつも一緒だった。
音楽が大好きで、74分ギリギリまで入れたおすすめのCD-Rを焼いては交換し合い、ライブがあると知れば、隣の市まで車を運転して出かけた。物販のライブTシャツを着た帰りの車の中では、大声で歌い合ったね。
お互いに結婚し、私は郷里を離れ、CD-Rもどこかにいき、手元に残ったのはくたびれたライブTシャツと君との思い出。
あのバンドは今年再結成するんだって。
君に、連絡を取ってみようか。最後に会った日に、時間を巻き戻して。
その時の「ドレス」コードは、
あの時のライブTシャツ。
「あなたは繊細な花だ。」
そう云われて嬉しい私はいるだろうか。
繊細な、硝子、壊れやすい、フラジャイル、取り扱い注意、臆病、不安、危険、怖い、怖い、怖い…。
握り潰したい。繊細ならば、壊れやすいならば、在ることが不安で怖いならば、いっそこの手でばらばらに粉々に。
決着を、つけてしまいたい。
決着を。今までと、これからの私に決着を。