執筆予定
【雪原の先へ】
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【白い吐息】
彩子は、だいぶ前にパケ買いしていたクラフトビールの蓋を開けた。
ソーセージのバター醤油焼きをつまみに、酔わないよう水と交互に飲んでみる。
オレンジピールが入っているらしく、特有の爽やかな酸味の後に、ビールらしい麦の風味が広がる。苦味は特に感じなかった。つまみはあっという間になくなった。
『こんばんは。今週もお仕事お疲れ様です』
『前に買ってたクラフトビール、開けて飲んでました。思ったより苦くなくて美味しかったです笑』
八木橋のトークルームに文を投げかけた。彼も今夜は何かしら飲んでいたのだろうか。
彼が以前、話に出していたフィギュアが届いたと報告してくれた時のように、返信を促すような文面にはしなかった。明日あたり通知が来たらめっけもんだ。そう思うことにした。
【消えない灯り】彩子19
八木橋に入店時間の確認を取るだけなのに、彩子は不安に駆られていた。いつもいつも場所取りをしていた元カノは大変じゃなかったのだろうか。
彩子は自分が選んだ店に対してネガティブな意見や反応を返されることを非常に嫌う。以前親友と行った絵画展は、実は販売展示会で、画商を避けるのに疲れた。藤堂との2回目デートで行ったカフェは席に着く前に注文するスタイルで、藤堂を焦らせてしまった。
八木橋との初対面のカフェだって、親友と何度も行ったところだから自信があったのに、それでも八木橋を緊張させてしまった。
自分は店選びのセンスがない。相手を喜ばせてあげられない。トラウマが彩子の中にずっとつもり続けている。これ以上、藤堂の時のような失敗を重ねたくない。ふりだしになんて戻りたくない。
『ありがとうございます。では14時ごろにしましょうか?もし埋まってたら前後の時間で予約しておきますね』
彼はきっと、料金はいくらだとか、事前予約は前払いでキャンセルができないだとか、そんなことを調べてはいない。
そっちが委ねてきたんだから、絶対文句言うなよ。
悴む人差し指で、送信ボタンを押した。
八木橋との再会まで、残り2週間を切っている。
【冬の足音】彩子14
今までにない気持ちの揺れに翻弄されていた彩子は、最低限の家事すらまともにできていなかった。
八木橋を見習って午後から半休を取り、掃除洗濯買い出しのすべてを片付けることにした。
「何かしらプレゼントを渡してみるといいかもしれません。クッキーとか」
「あー、ウイスキーならナッツとレーズンがいいかもね。ビールならジャーキーとかサラミとか」
占い師のアドバイスを鵜呑みにして、帰路に着く前にKALDIへ向かう。自分がビールを買ったからと嘘をついて社長から聞き出したおつまみを、ふたつほどカゴに入れた。合わせて600円程度、金額的にも彼に気を遣わせない程度に済んだ。
100均で紙袋も買い足す。初対面の時、彼はバッグを持たず、財布をズボンのポケットに入れていた。明日もそうなら、取っ手のついたある程度しっかりした作りの袋が必要になる。クリスマス柄だとあからさまなので、シンプルなデザインのものを選んだ。
知り合って間もない男のために、自発的に何かを買うなんて、彩子にとっては初めてのことだった。
「残業続きでお疲れでしょうから。良かったらお酒と一緒にどうぞ」
戸惑う彼の表情が浮かんだ。
【贈り物の中身】彩子16