『そちらがよければ予約しておきますね。時間は何時くらいが良いですかね?』
『了解です。ありがとうございます!』
『1日空けておくので、時間はいつでもだいじょぶです』
八木橋に入店時間の確認を取るだけなのに、彩子は不安に駆られていた。いつもいつも場所取りをしていた元カノは大変じゃなかったのだろうか。
彩子は自分が選んだ店に対してネガティブな意見や反応を返されることを非常に嫌う。以前親友と行った絵画展は、実は販売展示会で、画商を避けるのに疲れた。藤堂との2回目デートで行ったカフェは席に着く前に注文するスタイルで、藤堂を焦らせてしまった。
八木橋との初対面のカフェだって、親友と何度も行ったところだから自信があったのに、それでも八木橋を緊張させてしまった。
自分は店選びのセンスがない。相手を喜ばせてあげられない。トラウマが彩子の中にずっとつもり続けている。これ以上、藤堂の時のような失敗を重ねたくない。ふりだしになんて戻りたくない。
『ありがとうございます。では14時ごろにしましょうか?もし埋まってたら前後の時間で予約しておきますね』
彼はきっと、料金はいくらだとか、事前予約は前払いでキャンセルができないだとか、そんなことを調べてはいない。
そっちが委ねてきたんだから、絶対文句言うなよ。
悴む人差し指で、送信ボタンを押した。
八木橋との再会まで、残り2週間を切っている。
【冬の足音】彩子14
12/3/2025, 10:29:45 AM