古井戸の底

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12/1/2025, 10:52:09 PM

彩子の両親は見合い結婚だった。母はその当時では珍しく、結婚こそ女の幸せという考えを持たない人だった。
彼女はかつて、母親――彩子にとっての祖母――から早く嫁に行くように言われていた。小姑がいると、長男である兄に良い人が現れないからだそうだ。
見合いに来るのは曰く付きの男ばかりだった。初対面で何も言わずに隣県まで車を飛ばす。口を閉ざした本人の隣で母親ばかり出しゃばる。こんな奴らと共に過ごすくらいなら、いっそ従姉妹とシェアハウスでもした方がマシだと考えていたらしい。
母が最後の見合いだと決めた時、その相手は父だった。親同士が偶然同じ職場で働いていたことからの縁だった。父は相変わらず無口だったが、母にとっては唯一まともな男だった。跡継ぎの圧がない次男、車の運転が上手い、酒には弱い、愚痴を聞いてくれる。
仕事に追われしばらく会えずにいると、父は東京へ異動が決まった。母はそれを身内づてに聞いていた。軽いドライブデートをした帰り、父は振られると思って異動の話を切り出せないでいたので、母から声をかけた。

「どうするの?」
「俺も異動決まっちゃったしな……来てもらえる?」
「いいよ」

プロポーズはあっさりしていた。
母がOKを出したのは、父への恋愛感情というよりも、多忙な仕事や親の圧から、いい加減自由になりたいがためだった。「この人じゃなきゃダメ」ではなく、「この人だったらまあいいか」くらいの気持ちだったようだ。こうして父と母は恋仲という期間が明確にないまま東京で暮らし始め、その後東北へと戻ってきた。

父は自分の都合に合わせてくれた母に申し訳なく思っていたのか、その後何度かドライブデートに誘ったそうだ。今では母の足役となっている父からは考えられないと、彩子は思った。

八木橋と父が全く別の人間だというのは分かっている。ただ、彼はあまりにも出不精すぎる。この街に出てきて数年しか経っていないせいもあるのだろう。
彩子は不安だった。場所の提案は、同行人を楽しませなければならない責任が伴うのだ。私が薦めたカフェが気に入ってもらえなかったらと思うと、自己を否定されたが如く落ち込む。

八木橋は自分を信頼しているのだろうか、それとも面倒なだけなのか。



【凍てつく星空】彩子13

11/30/2025, 1:39:10 PM

執筆予定

【君と紡ぐ物語】

11/25/2025, 2:05:12 PM

職場と駅を繋ぐ道にはイチョウの葉の残骸が散らばり、踏み潰された銀杏の独特な臭いが時折鼻を掠める。
この落ち葉が綺麗さっぱりなくなる頃にはきっと、親友は愛する彼と共にこの地を旅立っている。

11月に控えた分、12月は立て続けに男と会う予定を入れていた彩子だったが、7日についてはキャンセルの選択肢すら浮かんでいた。LINEのやり取りが激減した藤堂とこれ以上デートを重ねることに、何の価値も見い出せない。彼が語れそうな分野の話題を振って、適当に共感や浅い質問をするだけ。向こうもつまらなさを感じているに違いない。
自分から指定した日付だったから、それを反故にするのは余計に気が引けた。彼女の送別会が入ったことにするしか妥当な理由が見つからなかった。
幸い、藤堂には親友の存在を話してはいる。これで代替案を提示せずにフェードアウトすれば、よほどの鈍感でない限り察するだろう。

彩子は親友にLINEを送った。
『お疲れ様です』
『ちょっと相談がありましてね、電話してもよろしくて?』
1時間ほど経って返信が来た。
『すまん、ライブ行ったら風邪ひいたので寝る』
『明日に延期させてくれ』
土下座するキャラクターのスタンプがついてきた。
『大丈夫、明日もダメそうなら言ってくれ』

彼女とやり取りする時、彩子はどれだけ時間が空いても悩むことはない。いつかは返してくれる、電話に応じてくれるという確信があるから。
そして八木橋の文面にも、同じような気持ちを微かに抱き始めていた。同時進行していないとはいえ、彼はとても律儀だ。残業が常となっている中でも、出勤時間・昼休憩・退勤後のどこかで返事が来るし、言葉少なでも会話を続けようとしている。
よくよく考えれば、彼から誘いが来るまで一週間ほどLINEが途絶えていたのだから、多少間があっても構わないのだ。また話が途切れて、こちらから突然話を振り直したとしても、きっと彼は何らかの言葉を返してくれるはず。その安定感が心地よく感じられた。


【落ち葉の道】彩子11

11/13/2025, 3:29:30 PM

執筆中

【祈りの果て】

10/30/2025, 10:54:41 PM

執筆中

【そして、】

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