わたしはこの星の生きとし生けるすべてのものたちが大好きだ。
彼らはわたしの子であり、芸術品であり、希望であり、盤面を照らす駒である。
だが、わたしはとても困っている。
どうしてわたしが愛するお前たちは、お互いを憎み争い、勝手に傷付け合うのか。
わたしはそんなことは望んでいないし、何よりせっかく創り出したものたちが、わたしの知らぬところで壊れてしまうのは残念である。
だから、お前たちよ。
思い上がるのはほどほどにしておくれ。
わたしはかわいい我が子の住む星を、見限りたくはないのでな。
【神様が舞い降りてきて、こう言った。】
誰かのためになるならば
自分は死んだっていいんです
そんなことを本気で言う
キラキラと目を輝かせる若者に
そんなのは誰のためにもならねぇよと
俺は本気で言ってやった
【誰かのためになるならば】
窓から覗く空を見上げ、飛んでいる鳥たちを見て思う。あの鳥たちはきっと、自分たちの自由を奪われることなど、決して望んではいないのだろうと。
けれど悲しいことに。
僕はそんな鳥たちの希望を浅はかに打ち砕く。
僕は今の今までずっと鳥かご職人として生きてきて、鳥かごを作ることは僕ができる唯一の仕事であるからだ。
僕はその日入ってきた注文通りの大きさと個数の鳥かごを作り、客に売る。生きていくために、淡々と注文を熟していく。ただそれだけの日々を過ごしていた。
ある日、僕の元にひとつの依頼が舞い込む。依頼をしてきたのはずいぶんと年を取った男性で、今度新しく小鳥を飼うことになったから、その小鳥が快適に暮らせる住処を作ってくれないかというものだった。
僕はもちろん承諾したが、男性が指定した鳥かごの作りには、いささか首を捻った。
まるで本当にひとつの住居を作るような、そんな指定だったのである。
ここには休める寝床を、できれば広めに作ってほしい。ここには食事を摂るためのスペースを。できれば椅子やテーブルのような調度品を模したものを入れてあげてはくれないか。あとは少しだけ目でも楽しめるように、鳥かごの周りを飾り立ててくれ。もちろんその分の料金も上乗せして払うから、と。
老人が希望する内容は、やってできないことではない。むしろ普段とは少し毛色の違う依頼に、僕の方も心なしか浮き足立っていたことも否めなかった。
数週間後、僕は僕なりに依頼に応えた鳥かごを作り上げ、老人に渡した。老人はその出来映えにひどくご満悦してくれたようで、何度も何度もありがとうと言っては僕の手を握り、当初の予定よりも多い金額を支払ってくれたのだ。
そんな不思議な依頼を終えた一年後。僕の元を一人の青年が訪ねてくる。青年は心なしか戸惑ったような表情を見せながら、昔老人に送ったあの鳥かごをその手に持っていた。
「実は祖父から自分が亡くなったらこの鳥かごを、貴方へ託すように言われてまして」
青年はそれだけを言うと、僕にその鳥かごを預け、すぐさま帰って行った。
はて、これはどういうことだろうか?
返品ということか。
けれど、すでに代金は頂いているし、いらなくなったのならそちらで処分してもらって構わなかったのだけれど。
訳も分からず僕が途方に暮れていると、どこからか「クスクス」という笑い声が聞こえてきた。僕がびっくりして周りを見渡すと、先ほど預けられた鳥かごの真ん中あたり──、そのあたりが淡く光を帯び始めたのだ。
「こんにちは。鳥かご職人さん!」
僕は目を疑った。さっきまで何もいなかったはずの鳥かごの中に、羽の生えた小さな妖精が現れ出たのだから。
「わたし、このかごが気に入ったの。けれど、おじいさんが居なくなったあの家で、わたしのことを受け入れてくれそうな人がいなかったから、こうして職人さんのところに運んでもらえるように、おじいさんに頼んでおいたの」
僕は驚きのあまり固まってしまったが、しばらくしてみるみる自分の口元が緩んでいった。
「ありがとう。可愛らしい妖精さん。君みたいな子に僕の作ったものを気に入って貰えるなんて、至極光栄だよ」
僕がそう返すと「やっぱり貴方は、おじいさんが見込んだだけあるわね」と、妖精はニヤリと口端を上げる。
「それじゃあ、お願いよ。わたしをこのかごごとここに置いてちょうだい。ここはすごく居心地がいい。きっと貴方が作るものが、どれも優しくて素晴らしいものだからだわ」
そうして自由を閉じこめるだけのものしか作れないと今までずっと嘆いていた僕は、初めて自分の作ったものに誇りを持ち、これからは誰かの拠り所となれるものを作っていこうと決意できたのである。
【鳥かご】
僕は君が嫌いだし、君だって僕のことが嫌いだろ?
それでもこうやって行く先々で出会ってしまうのだから、妙な縁だと言うしかないね。
え? それなら今から背中合わせになって、それぞれ反対方向へ進んでいけばいいだって?
なるほど。それはなかなかにいいアイデアだね。よし、君のその案に乗ろうじゃないか。
もしかしたら、これが君と顔を突き合わす最後になるかもしれないな。
それでは、記念に握手でもしとこうか。
ん? 何だいその嫌そうな顔つきは。
君ね・・・・・・。こういう時くらい愛想のひとつも見せたらいいじゃないか。嫌いな相手とも上手く付き合うのだって、大人の嗜みだぜ?
あー、はいはい。僕だって君とは金輪際、顔を突き合わせたくないよ。
だから、ほら、手、出して。
──痛い、痛い。
思いっきり握り締めないで。
まったくもう。
こんなに遠慮なく僕みたいな奴に突っ掛かってくる馬鹿は、この広い世界で君くらいのものだよ。
【友情】
夏の夜空に咲いた大輪に、しばしみんなが笑顔になる。
ドンっと耳に打ち付けるような大音量が、久しぶりになる夏の風物詩の再来を告げた。
【花咲いて】