僕は君が嫌いだし、君だって僕のことが嫌いだろ?
それでもこうやって行く先々で出会ってしまうのだから、妙な縁だと言うしかないね。
え? それなら今から背中合わせになって、それぞれ反対方向へ進んでいけばいいだって?
なるほど。それはなかなかにいいアイデアだね。よし、君のその案に乗ろうじゃないか。
もしかしたら、これが君と顔を突き合わす最後になるかもしれないな。
それでは、記念に握手でもしとこうか。
ん? 何だいその嫌そうな顔つきは。
君ね・・・・・・。こういう時くらい愛想のひとつも見せたらいいじゃないか。嫌いな相手とも上手く付き合うのだって、大人の嗜みだぜ?
あー、はいはい。僕だって君とは金輪際、顔を突き合わせたくないよ。
だから、ほら、手、出して。
──痛い、痛い。
思いっきり握り締めないで。
まったくもう。
こんなに遠慮なく僕みたいな奴に突っ掛かってくる馬鹿は、この広い世界で君くらいのものだよ。
【友情】
夏の夜空に咲いた大輪に、しばしみんなが笑顔になる。
ドンっと耳に打ち付けるような大音量が、久しぶりになる夏の風物詩の再来を告げた。
【花咲いて】
朝起きたら妻が用意してくれた朝食を食べて会社に向かう。その際に行ってきますという声かけと、今日は何時頃に帰るからという予定を告げることを忘れない。
昼はこれまた妻が朝早くに起きて作ってくれた愛妻弁当に舌鼓を打ちながら、俺の好きな卵焼きと唐揚げを入れてくれたことにしみじみと感謝する。
夜は仕事が終わったらなるべく早く帰宅をして、夕飯の準備を妻がしてくれている代わりに、子供たちの面倒をみる。そうして出来上がったご飯を家族みんなで囲みながら、ママの作る料理はいつだって美味しいねと、子供たちと一緒に笑い合う──。
──ああ、あの日にそんな行動ができていたら、今のこの状況はなかったのだろうか。
朝は挨拶もしないで家を出て、急な飲み会が入ったことをうっかり連絡し忘れて帰宅し、妻に空のお弁当箱を渡しながら、今日の卵焼きはいまいちだったねと、余計なことさえ言わなければ、俺はこんなにも家庭で孤立せずに済んだはずなのに。
もしもタイムマシンがあったなら、あの日の自分を殴りたい。
けれどそんなことはできないので、もう何日も口を聞いてくれない妻へ、今日こそはきちんと謝る機会を貰おうと、秘かに会社近くのケーキ屋に寄る。
妻の好きなチーズケーキを家族分頼み、祈るような気持ちで帰路に着いた。
【もしもタイムマシンがあったなら】
Question:今一番欲しいものは?
「現金」
「いや、情緒なさすぎだろ!?」
【今一番欲しいもの】
私が私として生まれたときに、一番最初にもらうもの。
名付けられたその日から、私は私になった。
私はやっと私と私以外のものを認識し、私は世界に唯一な存在であると自覚し、そして私以外の名前たちもこの世界にふたつとない唯一な存在なんだと気付く。
私は遠くの景色に思いを馳せながら、生まれたこの世界の尊さを噛みしめた。
【私の名前】