隣の人と手を繋ぐ。
その次の人がまた隣の人と手を繋ぐ。
そうしてその次の人も、その次の人も続いていき、何人も何人も隣の人と手を繋いでいく。
途中、どうしてもそりが合わなくて、互いに手を繋ぐことを拒否する人達が現れた。
それぞれの主張がぶつかり合い、どちらも一歩も引かないままだ。それに気付いた誰かが繋がっていた列から離れ、喧嘩をしている者同士の間に入る。
どうしたんだい? そんなに怒鳴り合って。
ああ、なるほど。君はこうしたいと思うのだけど、君は君で譲れない部分があるんだね。
仲裁者を挟んだ議論は続いた。いつの間にか手を繋ぎ合っていた全ての人達を巻き込んで、話し合いは広がっていった。
いったいどれくらいの時間を費やしたのだろう。果てしなく長い時間が過ぎていた。
けれどとうとう最後には、あんなに諍い合っていた者達が互いに納得しあい握手を交わした。
それはきっと、争う二人だけではどうにもできず、また仲裁を一番始めに買って出た彼だけではなし得ないものだった。
そうしてまた、隣の人と手を繋ぐ。
そしていつか、大きな輪になって。
世界がひとつになればいい。
【手を取り合って】
表裏一体なんだよ。
優越感も劣等感も、簡単に入れ替わる。
それってさ、すごく苦しいんだよね。
だって真逆な感情じゃん?
それがちょっとのことで表に出たり裏に返ったりするなんて、どれだけ心乱されてんだろうって思う。
ぶっちゃけ、疲れるよね。
そうは分かっていても、誰かと比べることをやめられない。
比べるのは昨日の自分と今日の自分だよって、よく言われるけどさ。
昨日の自分も今日の自分も嫌いなんだよ。
比べたっていいところが見つからないんだよ。
優越感も劣等感も、抱き続けるのは苦しいけどさ。
その苦しさの中でしか吐き出せない醜いものが、たまにあるから捨てられないんだよ。
【優越感、劣等感】
これまでずっと。
纏わり付いてくる君が嫌いだった。
一人にして欲しいのに。
君は僕を見付けると、どんなに遠くにいても駆け寄ってくる。
放っておいてほしい。
僕は一人でいるほうが好きだし。
他人といるのは煩わしくて、落ち着かないのに。
「どうして僕に近付くの?」
ある日、そう尋ねてみる。
君はあまり考え込む素振りもみせないで。
「だって君は、人の中に入るのがあまり好きそうではないから」
だから。
私から手を伸ばすの。
いつか君が誰かに手を伸ばしたくなった時。
すぐ届く距離に誰かがいたら、伸ばしやすいでしょう?
これまでずっと。
纏わり付いてくる君が嫌いだった。
一人にして欲しかったのだ。
僕は一人では生きられない弱い人間だから。
そんな自分が誰かに知られたらと思うと不安で、たまらなく思っていたのに、君はそんなこと大したことないみたいに言って笑う。
「私がね、これまでずっと、そうだったの」
一人ぼっちで居続けることを選んでいたの。
「けどね、一人だけ居てくれたんだよ。私に手を伸ばし続けてくれる人が」
だから。
今度は私がその一人だけになろうと思って。
だから。
これは私の自己満足な偽善なの。
だから。
君は私のことを嫌いでもいいんだよ。
ただ側にいることだけ、覚えていてくれれば。
これまでずっと。
頑張っていた君が。
一人でいたい時も、一人じゃないことを忘れないでいて欲しいから。
【これまでずっと】
未読のLINEが1件。
スマホの画面の隅にそんな通知が先程からちらついていた。
ああ、どうしよう。
早く返信しなければと思いながら、未だうだうだと迷って開けずにいる。
これを読んでしまったら、何かしらの関係性が僕とメッセージの相手との間に成り立ってしまう。
ここから今よりも良い関係に変化するかもしれないが、自分やもしくは相手までもを傷付けてしまう可能性だってある。
僕は誰かと繋がることが苦手だ。
それと同時に、ひどい孤独感に日々苛まれている。
人生とはままならぬもの。そうは分かっていても、僕は矛盾ばかりを身に貼り付けながら、今日もLINEの新着メッセージを、おそるおそる待ち侘びている。
【1件のLINE】
目が覚める。
そこはいつもと同じ場所。
みなれた部屋に、みなれた家具。
ふとカーテンが開いていた窓の外。
向こう側に広がる景色も、いつものみなれた街並みの様子。
「おはよう」
誰ともなく呟いて、見慣れた世界の新しい日に、今日も出会えた奇跡へ感謝する。
【目が覚めると】