これまでずっと。
纏わり付いてくる君が嫌いだった。
一人にして欲しいのに。
君は僕を見付けると、どんなに遠くにいても駆け寄ってくる。
放っておいてほしい。
僕は一人でいるほうが好きだし。
他人といるのは煩わしくて、落ち着かないのに。
「どうして僕に近付くの?」
ある日、そう尋ねてみる。
君はあまり考え込む素振りもみせないで。
「だって君は、人の中に入るのがあまり好きそうではないから」
だから。
私から手を伸ばすの。
いつか君が誰かに手を伸ばしたくなった時。
すぐ届く距離に誰かがいたら、伸ばしやすいでしょう?
これまでずっと。
纏わり付いてくる君が嫌いだった。
一人にして欲しかったのだ。
僕は一人では生きられない弱い人間だから。
そんな自分が誰かに知られたらと思うと不安で、たまらなく思っていたのに、君はそんなこと大したことないみたいに言って笑う。
「私がね、これまでずっと、そうだったの」
一人ぼっちで居続けることを選んでいたの。
「けどね、一人だけ居てくれたんだよ。私に手を伸ばし続けてくれる人が」
だから。
今度は私がその一人だけになろうと思って。
だから。
これは私の自己満足な偽善なの。
だから。
君は私のことを嫌いでもいいんだよ。
ただ側にいることだけ、覚えていてくれれば。
これまでずっと。
頑張っていた君が。
一人でいたい時も、一人じゃないことを忘れないでいて欲しいから。
【これまでずっと】
未読のLINEが1件。
スマホの画面の隅にそんな通知が先程からちらついていた。
ああ、どうしよう。
早く返信しなければと思いながら、未だうだうだと迷って開けずにいる。
これを読んでしまったら、何かしらの関係性が僕とメッセージの相手との間に成り立ってしまう。
ここから今よりも良い関係に変化するかもしれないが、自分やもしくは相手までもを傷付けてしまう可能性だってある。
僕は誰かと繋がることが苦手だ。
それと同時に、ひどい孤独感に日々苛まれている。
人生とはままならぬもの。そうは分かっていても、僕は矛盾ばかりを身に貼り付けながら、今日もLINEの新着メッセージを、おそるおそる待ち侘びている。
【1件のLINE】
目が覚める。
そこはいつもと同じ場所。
みなれた部屋に、みなれた家具。
ふとカーテンが開いていた窓の外。
向こう側に広がる景色も、いつものみなれた街並みの様子。
「おはよう」
誰ともなく呟いて、見慣れた世界の新しい日に、今日も出会えた奇跡へ感謝する。
【目が覚めると】
こっちに行けば安心なのに。
あなたはあっちに行きたいと言う。
私は、嫌だよ、怖いもん、と首を振るが、あなたは、大丈夫だから、と、何の根拠もなくそんなことを言い放ち、こちらへと手を差し伸べてくる。
私はおそるおそるその手を取り、あなたの言う通り、私が行こうと思っていたのと反対の方へ行ってみた。
途中、やっぱりこっちに来なければ良かったとか、あなたのせいで大変な思いをしているとか、後悔したり、八つ当たりしたりと、散々な時もあったけれど。
いつの間にか私はあの時は安心だと思っていた方向よりも、嫌で怖くて仕方のなかった方向へ、よく曲がるようになっていた。
あんなに嫌で怖かったのに。
今はあまりそうでもない。
きっとこんなふうにこれからも、誰かの力を借りたり、何かの影響を受けながら、私は嫌で怖かったことを、当たり前のように、嫌でも怖くもなくなっていくのかもしれない。
【私の当たり前】
太陽が沈む夕暮れ時。
街中に、ぽつり、ぽつり、と明かりが灯っていく。
家族が揃った光景に。
大切な人を迎えたのだろう誰かの日常に。
今日も僕は胸をほっこりさせて帰路に着く。
「おかえりなさい」
「ただいま」
そうして僕も。
そのほっこりする街の明かりの一部となった。
【街の明かり】