Yushiki

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7/5/2023, 10:29:05 PM

 暗い夜闇に迷わぬように
 僕らは揺るがないあの小さな輝きを
 指標にして彼の道を進む

 暗い夜闇で寂しくないように
 僕らの頭上に散りばめられた
 あの小さな星々へ
 寄り添ってくれてありがとうと
 笑いながら指を差す
 
 きっとあの小さな星々の中にも
 僕らと同じ夜空を仰ぐ誰かがいて
 今夜もこちらを見上げて笑いながら
 明日の日を思い旅をしている

 闇の中にいる僕らだけれど

 決してひとりぼっちじゃないんだと
 星空の下で夜を想う



【星空】

7/4/2023, 11:21:23 PM

 サイコロを投げる。
 出た目の数だけマスを進める。
 誰もが知っている双六ゲームだ。

 双六ゲームは盤上にどんなマスがあるのかが一目で分かる。何の目を出せば進むに止まり、何の目を出せば戻るに止まるか、一回休みになるかなど。

 つまりゴールに至るまでのマス目の数が分かれば、合計で何回サイコロを振れば辿り着くのか、おおよそ分かってきてしまう。

 その何回かに起こる余興を、楽しむゲームと思えばいいのかもしれないけれど。

 それではいつか、つまらなくなるだろうから。

 俺はイカサマなしで、純粋に振っただけの目を、知り得ることができる側になりたい。


 だってそれだけが唯一、神様だけが知っているものだから。



【神様だけが知っている】

7/4/2023, 4:23:41 AM

「この道の先には、あなたにとっての輝かしい未来が待っています」

 俺は力を込めてそう言い放ち、ニコリと微笑む。

 そうすると、俺の前にいた若者がぱっと明るい笑顔を浮かべ、躊躇っていた足を進ませて前方へと去って行った。

 この流れを、毎日延々と繰り返す。
 それが、今の俺の仕事だった。
 何も知らない無垢な輩を、この道の先に進ませる。この道の先に何があるのかなんて、全くもって知らないのだけれど、そんなことは俺にとってはどうでもいいことだった。

 ただ与えられた仕事をこなし、給料を貰う。
 それだけできれば、あとは誰がどうなろうが興味もない。

 そんなことを考えていたら次の奴が来た。そいつは長い裾のコートを羽織り、フードを目深に被っていて顔が見えない。男なのか女なのか、はたまた若者なのか老人なのか、何も判断がつかないけれど、俺は気にせずにすっかり慣れきってしまった口上を述べる。


「この道の先には、あなたにとっての輝かしい未来が待っています」


 言ったあとはいつだって、不安に覆われていた目の前の人物の表情がいくらか晴れる。そうして躊躇していた足を進ませていくのがお決まりの流れ。現在俺の前にいるこいつの顔は、暗く翳って隠れているが、それでも変わらずそのまま道の先へと進んでいくものだろうと、その時までの俺はそう思っていたのだけれど。


「・・・・・・輝かしい未来?」


 そいつはいっこうに足を動かさない。それどころか、予想外にこちらへ話し掛けてきた。

「本当にそんなものが、待っているんですか?」
「・・・・・・ええ、もちろんですよ。何も不安がらず、どうぞお進みください」

 愛憎のいい笑顔を浮かべた裏で、こいつは面倒臭いなと俺は舌打ちをする。
 さっさと進めばいいものを。どうせここを通る奴らに、進む以外の選択肢などありはしないのだから。

 俺は半ばぞんざいにそいつへ前進を促した。そいつはコートのポケットへ徐に手を入れると、影になった表情を俺の方へと向ける。

「そんなもの、どこにもありませんでしたよ」

 次の瞬間、ズドンっ、と重い音が鳴り響いた。
 驚く間もなく、俺の胸に焼け付くような熱さが、一気に広がっていく。

「・・・・・・お、まえ・・・・・・っ!」

 俺は胸元を抑え、数歩退いた。そいつの右手からは硝煙をのぼらせる黒い銃口が伸びていた。

「あなたは、無責任だ」

 ごぼり、と俺は血を吐いた。後ろへよろけて背中から地面に倒れ込む。

「そして、無関心だ」

 銃口を突き付けるそいつが、倒れた俺を見下ろすようにして立っている。

「無責任と無関心は、時に誰かを殺します」

 夥しい量の血液が胸から溢れてくる。俺は霞む視界と意識の中であいつの低い声を聞いた。

「この道の先に誰かを歩ませたいなら、まずはあなたが前を行くべきです」

 銃口は未だ俺の方を向いていた。カチリという不穏な音が俺の耳に響く。

「未来を語れるのは、未来を作ったことがある人だけですから」

 ズドンっと激しい銃声が一発鳴った。
 放たれた二発目の銃弾が俺の胸をさらに抉るが、その時の俺はもう、完全に息を引き取っていた。



【この道の先に】

7/2/2023, 10:34:28 PM

 夏の強い日差しが降り注ぐ。
 まとわりつくような湿気を連れて、熱く肌を刺していく。
 時折、その熱さに紛れて、肌の表面をぞわりと擽るような感触が、通るときがある。
 細く柔らかな刷毛に撫でられたような、そんな感覚だ。
 気付かぬうちに小さな虫が肌の表面に止まったのか。髪の毛束がはらりと落ちたのか、それは分からぬが。

 私はまだ一度だってその虫を目で捉えられたことなどないし、私の髪は幼少の頃からずっと、肩になど掛かったこともない、ショートヘアーなのだけれども。



【日差し】

7/2/2023, 8:33:43 AM

 トン、トン、トン。

 窓のガラスを叩く音がする。
 部屋の中にあるベッドの縁に腰を掛け、手近にあった本を読んでいた私は、ふと読むのを止めて窓の方へと顔を上げた。


「ねぇ、ねぇ、中に入っていい?」


 窓の外からそんな声が聞こえる。私は閉じた窓をじっと眺めながら、はっきりとした声で告げる。




「ダメ」




 私は再び本のページに視線を戻す。
 窓の外が大きな影に塞がれたように暗くなり、悔しそうな叫び声が響き渡った。



【窓越しに見えるのは】

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