帰燕[Kien]

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11/25/2024, 2:55:03 PM

作品No.239【2024/11/25 テーマ:太陽の下で】


 男は、その女を木に縛りつけた。女は、荒い呼吸を繰り返しながら男を睨む。
「まだそんな表情ができるとは、感心ですね」
 男はにっこりと笑いながら言った。
「ですが、もう諦めた方がよろしいかと。いくらあなたでも、この状態では勝ち目がないはずです」
「卑怯者が……!」
 女は、美しい顔をさらに怒りに歪ませる。しかし、怒りの矛先にいるはずの男の表情は変わらない。
「こうでもしないと、私のようなただの人間は勝てませんから」
 男はそう言って、後ろを振り返る。少しずつ明るくなっていく空が広がっていた。女の表情が、一瞬にして焦りへと変わる。
「くっ……」
 逃げ出すためだろう、必死に身を捩る。男は、そんな女の肩に、持っていた短剣を突き刺した。
「う、あぁぁぁっ‼︎」
「逃しませんよ」
 陽が、だんだんと高くなる。そして、その光が女の肌をさした瞬間、
「がっ! あ、あぁぁぁっ! いや、やだ! やあぁぁぁ‼︎」
と、女は悲鳴を上げた。陽光が当たったそこから、女の身体は火傷のように赤くなり、そして、発火した。その火はやがて女自身を焼き尽くした。女の身体は跡形もなく、灰となって風に流されていく。男はただ、それをぼんやり眺めていた。
「言っておきますが、あなたが望んだことですから、悪く思わないでくださいね」
 自分の言葉を拾う者がいないとわかっていて、男は言う。
「『太陽の下であなたと過ごしたい』——そう言っていたのは、他ならぬあなたなのですから」
 男は言って背を向ける。男の頭の中では、ただの人間のふりをしていた女の笑顔と、その女の断末魔が、繰り返し繰り返し流れ続けていた。

11/24/2024, 2:58:32 PM

作品No.238【2024/11/24 テーマ:セーター】

※半角丸括弧内はルビです。


 セーターが送られてきた。見るからに手作りとわかる、少し縫い目が荒く不揃いのセーターだ。受取人は俺の名前で、差出人はありふれた名字だけが書かれていた。
「どーしたの、三登(みと)」
 ボーッと箱の中身を見つめている俺に、食器洗いをしている真っ最中の鳴理(なり)が声をかけてくる。俺は、なんとなく鳴理に見られたくなかったのだが、隠すのも違う気がして、
「いや……知らない人からセーターが届いたんだよ」
と、正直に答えた。鳴理は、軽く手の水気を振って払うと、キッチンペーパーでさらに手を拭きながら、俺の隣にやってきた。
「【鈴木(すずき)】さん——って、名字だけしか書いてないの? これはまたどこにでもいる名字だね。ほんとに知り合いにいないの?」
「名字だけじゃ、知り合いいすぎてわからないよ。友達とか、職場関係とか、親戚とかね。俺の母さんだって、旧姓は〝鈴木〟だったし」
 そう言って肩をすくめると、鳴理は、
「それは困ったね」
と、顎に手を当てて考え込んだ。
「手書きだったらまだ特定の余地ありそうだけど、印刷された伝票じゃ無理だしね」
 鳴理は、俺が箱から剥がした伝票を見てそう言った。
「ねぇ、三登」
 鳴理は、唐突に声を低くして俺を呼んだ。そして、セーターを指さすと、
「これ、ちょっと触ってもいい?」
と、訊いてきた。疑問に思いながらも、俺は頷いた。
「まさかとは思うけどさ」
 鳴理の手がセーターを拡げる。そして、拡げたそれを俺の背に当てがった。
「……うわ」
 短くそう呟いた鳴理が、セーターを箱に戻す。いや、それは戻すというよりも、無理矢理箱に突っ込んだといった方が正確だろう。鳴理は、セーターをぐしゃぐしゃに丸めて箱に乱雑に入れたのだ。
「どうしたんだよ、鳴理」
「三登」
 鳴理は、セーターから視線を逸らさない。そのまま、口だけを動かした。
「ほんとに、これの送り主に心当たりないの?」
「ないよ。どうしてそんなこと訊くの?」
「だって」
 鳴理が、俺の方を見る。その目は、怯え揺らいでいるように見えた。
「このセーター、多分手編みだと思うんだけど」
 鳴理は、躊躇したのか一度言葉を止める。そして、しばらく沈黙した後、意を決したように口を開いた。
「サイズが三登にぴったりすぎるんだもん」

11/23/2024, 2:55:46 PM

作品No.237【2024/11/23 テーマ:落ちていく】


 例えば。そう、例えばの話。
 私が死んだとして。私が突然死んだとして。
 遺された家族は、どんな反応をするのだろうか。
 哀しむのだろうか。
 怒るのだろうか。
 年長者より先に逝くのはゆるせない——そう言うのだろうか。

 十ほど歳の離れた従兄の葬いを控えた夜だから、そんな考えに耽るのだろう。答えのない問いを考えたまま、また眠りに落ちるのだろう。

 いつものように。

11/22/2024, 2:54:38 PM

作品No.236【2024/11/22 テーマ:夫婦】


今はまだわからないけれど
私も誰かと夫婦になる
そんな未来があるのだろうか

11/21/2024, 2:16:46 PM

作品No.235【2024/11/21 テーマ:どうすればいいの?】


 おなかすいたなー。でも、こいつ、じかんたたないと、ごはんでてこないしなぁ。しかも、ごはんでるときへんなおとなるし。このすきまからどうにかてをつっこ……めないなぁ。どうしたものかなぁ。
 ……なぁ、みてるんだろ? このへんなもんのむこうで、おれのようすみてニヤニヤしてるんだろ?
 そんなことしてるヒマあったら、ごはんよこせ! はらへった!

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