作品No.157【2024/09/04 テーマ:きらめき】
一瞬、だったなぁ。
それこそ、流れ星みたいな、すぐに消えてしまうきらめきっていうか。いや、そもそもきらめいてすらいたのかどうかわからないけど。
まだまだしたいことも、たくさんあった——ような気がするのに。今となってはわかんないや。
あたしは、ここで終わり。
それだけは確かなんだし。
作品No.156【2024/09/03 テーマ:些細なことでも】
男は、そのチラシを見ながら、
「どんな些細なことでも——ねぇ」
と、独り言ちた。
そのチラシは、半年前から行方不明のとある少女の情報を募るものだった。この辺りでは有名な、所謂底辺高校の制服を着た少女の写真も載っている。明るい茶色の髪と、目元の濃いメイクは、どちらかといわなくとも派手な印象をもつ少女として男の目に映った。
「とっくのとうに死んでますよその子——なーんて言ったら、どうなるんですかねぇ」
男は言って、チラシをテーブルの上に放り投げた。
「ねえ、あんたはどう思います、これ」
テーブルの向こう側には、椅子に縛り付けられた男がいた。鼻ピアスが特徴的な男は、男を見てただ震えている。
「あんたが殺した子——こうしてさがしてくれる誰かがいるみたいですよ。それについて、どう思います?」
「ゆ、ゆるしてくれよ……」
鼻ピアス男は、震える声でそう絞り出した。
「警察にでもなんでも行くからさ、放してくれよ、な?」
「そういうわけにいかないんですよ。大体、警察に行くなんて言葉、信じられるわけないでしょう?」
男は、にこやかに笑む。それは、穏やかな微笑みに見えるのに、なぜか鼻ピアス男の恐怖心を煽った。
「僕はただ、知りたいだけですよ。それこそ、どんな些細なことでもいい、余すところなく、全てを——ね」
男は、笑みを浮かべたままだ。そのまま、鼻ピアス男に歩み寄る。
「教えてくださいよ。この子をどんなふうに殺しました? この子を殺した後、どんな感情を抱きました? 今、この子や、遺された人達に、何か思っていることはありますか?」
「や、やめろ……来るな……!」
鼻ピアス男は、必死にもがく。椅子に縛り付けられている状態では、逃げようがないことはわかっているのに、そうせずにはいられなかった。椅子がガタガタと虚しく鳴る音だけが部屋に響く。
「さぁ、話して聞かせてくださいよ。あんたの犯した、罪の物語を」
鼻ピアス男を見下ろしながら、男は笑みを絶やさぬままそう告げた。
作品No.155【2024/09/02 テーマ:心の灯火】
おやおや、これは随分と美しい。
ああ、失礼。初対面の相手に言う台詞ではなかったな。
……え? 「わたしのどこが美しいの?」って? その表情、怒っている——いや、何か気に障りましたかな? ですが私は何も具体的には言っていないでしょう? 〝顔の造形が〟とか、〝髪の色艶が〟とか、〝脚の形が〟とか——そういったことは、何一つ言っていない。私はただ、〝これは随分と美しい〟としか言っておりませんよ。
私が言ったのは、もっと深く、もっと見えない部分の話でしてね。顔の造形や、髪の色艶や、脚の形なんて、それこそ私には些末なことなのですよ。
いやはや、本当に、ひさしぶりに美しいものを見ましたよ。この仕事をして長いですが、最近はなんといったらいいのか……私には美しいと思えないモノしか見れませんでしたからね。
この世の中、日々を泳いでいくのは大変なんでしょうな。
あなたはこのまま、帰りなさい。それを消し去ろうとしてここに来たのだろうが、それは勿体無いことだ。
今はわからなくてもいいでしょう。だけれどどうか、憶えておいてください。
あなたの身の内に宿るそれを、どうかどうか、大切に。絶やさず灯していてください。
作品No.154【2024/09/01 テーマ:開けないLINE】
職場の先輩からのLINEを、ずっと開けずにいる。かれこれ、七年くらいになるだろうか。
その先輩とは今も同じ職場で、今も頼りにしているし、よく話す間柄なのだけれど、それとこれとは話が違うもので。
多分きっとこの先も、開くことはないのだろうな。
作品No.153【2024/08/31 テーマ:不完全な僕】
満たされない。何かが足りない。
そんな気がして、いろんなきみと繋がったけれど。
やはりいつも、何かが欠けている。
ずっとずっと、自分ですら何かわからない何かを求めているようで。
自分の中にない何かを、誰かや何かで埋めようと——その何かは埋まらないのに。
不完全な、ままなのに。