作品No.155【2024/09/02 テーマ:心の灯火】
おやおや、これは随分と美しい。
ああ、失礼。初対面の相手に言う台詞ではなかったな。
……え? 「わたしのどこが美しいの?」って? その表情、怒っている——いや、何か気に障りましたかな? ですが私は何も具体的には言っていないでしょう? 〝顔の造形が〟とか、〝髪の色艶が〟とか、〝脚の形が〟とか——そういったことは、何一つ言っていない。私はただ、〝これは随分と美しい〟としか言っておりませんよ。
私が言ったのは、もっと深く、もっと見えない部分の話でしてね。顔の造形や、髪の色艶や、脚の形なんて、それこそ私には些末なことなのですよ。
いやはや、本当に、ひさしぶりに美しいものを見ましたよ。この仕事をして長いですが、最近はなんといったらいいのか……私には美しいと思えないモノしか見れませんでしたからね。
この世の中、日々を泳いでいくのは大変なんでしょうな。
あなたはこのまま、帰りなさい。それを消し去ろうとしてここに来たのだろうが、それは勿体無いことだ。
今はわからなくてもいいでしょう。だけれどどうか、憶えておいてください。
あなたの身の内に宿るそれを、どうかどうか、大切に。絶やさず灯していてください。
9/2/2024, 2:58:18 PM