作品No.134【2024/08/12 テーマ:君の奏でる音楽】
ああ、言わなきゃよかったなぁ。
ずっと近くで見てきたんだ、きみがどれだけそれを大切にしているのか、僕は知っていたはずなのに。そして、きみが僕のことも、大切にしてくれているって、僕はわかっていたはずなのに。
僕、と、音楽——きみにとってはどちらも同じくらい大切で、優劣なんてなくて、どちらが上でどちらが下かもなかったはずで。
なのに、僕は。
比べてしまった。
どちらかを選び取るよう、きみに要求してしまった。
それが、きみを追い詰めた。
きみの奏でる音楽は、今日もいろんな場所で漂い流れる。スマートフォンからも、テレビからも、ラジオからも。まるで、きみを悼むように。
まるで、僕を責め立てるように。
作品No.133【2024/08/11 テーマ:麦わら帽子】
我が家のラックの一番上に
ずーっと置きっぱなしの
麦わら帽子
家族の誰もかぶらない
無意味な置物
いい加減 捨てようかな
うちの自治体では燃えるゴミ
みたいだし
でも
母がきっと
後生大事に
取っておこうとするんだろうな
作品No.132【2024/08/10 テーマ:終点】
特に目的もなく
バスに揺られて
たどり着いた終点
初めて見る場所
なのに
なんの感慨もわかない
また来た道を戻るだけ
作品No.131【2024/08/09 テーマ:上手くいかなくたっていい】
上手くいかないことばかり
何事にも不器用で
何をやっても上手くいかない
上手くいかなくたっていい
なんて
自分自身にかけたところで
ただのなぐさめ
ただの自己弁護
もう少し上手く
この世界を泳げたらいいのにね
作品No.130【2024/08/08 テーマ:蝶よ花よ】
蝶よ花よと、大切にされたこともあった。それさえも、遠い昔の話になってしまったけれど。
あの頃は、自分がこの世で一番美しいと信じていた。万人に愛されて当然だ——と。
でもそれは、ひと時の夢幻だった。
あの頃の私を知る人がなくなり、この世に残されて幾年月。色艶を失った身体だけが、私として存在している。
美しい私は、もういない。私を愛でてくれる人も、もういない。
いつまで、生きていればいいのだろう。失っていくばかりなのに、虚しいばかりなのに——いったい、いつまで。