作品No.129【2024/08/07 テーマ:最初から決まってた】
きっと最初から決まってたんだと思う。
私がこんな人間になることとか、そういう——〝人生〟とか〝運命〟みたいなモノ。
過去も現在も未来も全部、何かが最初っから決めてて、その台本の上を動き回ってる——みたいな。
そう思うことがある——というより、そう思う方が楽なんだと思う。
誰かの決めた筋書きの上で、与えられた役割のまま動く方が、自分で考えて動くより何倍も楽だから。
作品No.128【2024/08/06 テーマ:太陽】
※半角丸括弧内はルビです。
「なんで」
目の前には、もう動くことのない、彼の身体。私が、私だけが、非現実な世界にいるような、感覚がした。でもそれが、錯覚だってわかっていた。
これは、現実だ。いくら私が認めたくなくても、目の前のこれは紛れもなく本当で本物だ。
「なんで、あんたがこうなってんの」
彼の声が、頭の中で響いている。「夢蘭(ゆら)は、僕の太陽なんだ。いつも輝いてて、照らしてくれて、導いてくれるから」——そう、言っていた彼の声が。
「太陽——か」
頭(かぶり)を振って、私は笑ってみせた。現実逃避? それとも、彼に心配かけまいとしての行為? どちらも、違う。
これは——自嘲だ。
「あんたにとって、私が太陽だったみたいに」
私の中で、いつも輝いてて、照らしてくれて、導いてくれたのは——他ならぬ、あんただったよ。それはずっと、変わらないと、代えられないと、思っていたのに。
「私にとってあんたも、かけがえのない太陽だったよ」
作品No.127【2024/08/05 テーマ:鐘の音】
店先で鳴る呼び鈴の音。私と姉は立ち上がって、裏口の戸を開ける。
「おばあちゃあん!」
そう呼ぶと、祖父の愛人——祖母の皮肉混じりの称号だ——である黒イヌのルーが吠える。そして、洗濯をしていた祖母が走ってくる。
「お客さん!」
「はいはい」
祖母が店に戻るのを見届ける前に、私達はドアを閉める。
これが、小学生の頃、夏休みの私達姉妹の日常だった。
今はもう、祖父はいないし、ルーもいない。祖母がやっていたお店は、大元の会社の倒産をきっかけに閉店した。祖母は元気だが、最近体調がよくないことも多い。
もうあの呼び鈴の音が鳴ることはないだろうが、あの夏の日々は、今よりずっと輝いていた思い出のひとつだ。
作品No.126【2024/08/04 テーマ:つまらないことでも】
つまらないことで
泣き
笑い
怒り
感情豊かに表情に出していた日々
今や遠い過去の日々
作品No.125【2024/08/03 テーマ:目が覚めるまでに】
夢、だったらいいのに。
もう二度と、私を映してくれない瞳。もう二度と、私の名を呼んでくれない口。もう二度と、動かない身体。
あなたの命の火が消えてしまったこと、全てが夢だったらいいのに。
眠って起きたら、あなたが傍にいる——その日常が、戻ればいいのに。
私が明日、目が覚めるまでに。