帰燕[Kien]

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作品No.134【2024/08/12 テーマ:君の奏でる音楽】


 ああ、言わなきゃよかったなぁ。
 ずっと近くで見てきたんだ、きみがどれだけそれを大切にしているのか、僕は知っていたはずなのに。そして、きみが僕のことも、大切にしてくれているって、僕はわかっていたはずなのに。
 僕、と、音楽——きみにとってはどちらも同じくらい大切で、優劣なんてなくて、どちらが上でどちらが下かもなかったはずで。
 なのに、僕は。
 比べてしまった。
 どちらかを選び取るよう、きみに要求してしまった。
 それが、きみを追い詰めた。
 きみの奏でる音楽は、今日もいろんな場所で漂い流れる。スマートフォンからも、テレビからも、ラジオからも。まるで、きみを悼むように。
 まるで、僕を責め立てるように。

8/12/2024, 2:13:37 PM