またね
彼にこっぴどくフラれた。
身体のことを相談した後だった。
結婚も視野にいれたお付き合いだったから、皮膚の慢性疾患により通院していることを打ち明けた。
彼は家族にそのことを話したらしい。
結果、家族から付き合うことを反対された。
彼は私をフルときに、「自分の家族が一番大事。家族が反対する人とは付き合えない。」と説明した。
病を打ち明けることはリスクだと覚悟していたとはいえ、ショックは思った以上に大きかった。
私の病は見ため以外の問題はない。遺伝もしない。
正直、その歳でまだ結婚相手の見た目にこだわるのかと腹も立った。
しかし、それ以上に、私に外見を上回る以上の内面的魅力がなかったことを悔しく思った。
これはかなり堪えた。
信頼関係は出来ていると勘違いしていた。
お互いなくてはならない存在になっていると思っていた。
大きな誤算だったし、自惚れであることを突きつけられた。
私は家族に直接話したいと食い下がった。
家族に会って、私の内面を知ってもらえば覆る話だと思った。
悔し紛れに言ったその提案は受け入れられず、私は絶望した。
所詮、家族を優先する男だ。
結婚したところで、私と家族がぶつかったとき味方してもらえないのは目に見えている。
そう考えて諦めた。
去り際に私は「またね。」と別れた。
帰り道に滑稽な挨拶だったと自分を笑った。
だって、「またね。」って次も会うことが決まっているからする挨拶だ。
私たちは今しがた別れたのだから「またね。」なんてない。
この気づきにまたショックがより一層深まった。
P.S
別れたあと、半年ほど友人としての関係を続けた。
私は諦め切れていなかったし、次の恋愛に身も入らなかった。半年経って、もう一度思いを伝えた。
答えはノーだった。そのときはさすがに諦めて「さようなら」の挨拶をした。その話しはまた別の機会に。
泡になりたい
鴨長明の方丈記
行く川のながれは絶えずして、しかももとの水にあらず。よどみに浮ぶうたかたは、かつ消えかつ結びて久しくとゞまることなし。
うたかた、というのは泡のことで、川の泡は消えたり生まれたり、ずっととどまることもなく、人の人生のようだね、と詠っている。
なんだか、この達観した世の中の見方が好きだったりする。
私は大学の研究室時代に泡の研究をしていた。
指の関節を鳴らすとき、パキッっと音が鳴るのをみなさんご存知と思う。
あれは、関節液の中に泡ができて、その泡が弾けるときの音なのです。
もっと詳しく説明するなら、関節液が骨と骨の狭い隙間を流れるときに、狭いところを通るものだから液の流れが速くなり、そのときに反比例して水圧が下がる。
これをエネルギー保存則にならったベルヌーイの法則という。
関節液に漂う小さな泡はまわりの水圧が下がれば、膨張していく。膨張して大きくなった泡は割れて崩壊する。このときに衝撃波を出して音が鳴る。
この現象をキャビテーションというのだ。
そんな断面的な知識は置いておくとして、
面白いのは水の中には目に見えない小さな気泡核が無数にあるということだ。
この気泡核は水分子同士の隙間であったり、コップの表面の汚れの凹凸にはまっている小さな空気だったりする。
これが、目に見えるまで大きく膨張して成長したものを私たちは泡と呼んでいるのだ。
気泡核が泡に成長する原因は主に3つある。
一つは先ほど説明したまわりの水圧が下がること。
水と空気の違いはあるが、山にポテチの袋を持っていくと、気圧が下がってポテチの袋が膨らむのと似ている。
2つ目は水を温めて沸騰させること。100℃を越えると水が水蒸気になり、気泡核の中に水蒸気がたまって大きくなる。
3つ目は、なんと衝撃だ。
コップに炭酸飲料をいれるときに、そっとコップの壁に沿わせて入れる場合と壁に沿わさずにドボドボ入れるときとを比較してみてほしい。
ドボドボ入れたときの方が泡が沢山でる。これは水に水の中の気泡核が受ける衝撃が大きいからだ。
泡一つとっても不思議なことが沢山ある。
泡になりたい、ということはつまりどういうことか想像いただけただろうか?
気泡核くんが泡になる方法は3つあるので、想像してみてほしい。
ただいま、夏
県内で40℃越えの観測値が出たよ。
君は毎年、猛威を振るって帰ってくるね。
負けないように、頑張らないね。
ぬるい炭酸と無口な君
私は基本的に出されたものはあっという間に食べてしまう質なので、冷たい炭酸がぬるくなるまで待つことなんてない。
ぬるい炭酸を飲んだとすれば、冷蔵庫が半玉に切ったスイカでパンパンになって、ペットボトルを入れる隙もなく、冷やすことの出来なかった炭酸を口にした場合だ。
あの残念な気持ちをお分かりになるだろうか?
ただでさえ味のしない炭酸がぬるい。
冷たい水の方がまだマシというものだ。
婚活パーティーで無口なお相手と話が弾まなくて後悔する瞬間と似ている。
無口な君よ。
波にさらわれた手紙
大阪関西万博に行ってきた。
7日前抽選でブルーオーシャンドームに当たった。
目の前にドームいっぱいの真っ黒い球体
この真っ黒い球体がスクリーンになっていた。
球体に真横から青い光が当てられて、私たちには三日月のように欠けた地球が映し出される。
徐々に地球が満ちていき、球体スクリーンのメリットを存分に生かした大きな美しい、青き地球が現れた。
次に、魚の受精卵がドームいっぱいに映し出される。
1つの受精卵が2つの細胞になり、4つ、8つと高校生のときに学んだ卵割が進む。
数えきれないくらいの細胞の固まりになったとき、一つ一つの細胞が役割を持ちはじめ、背骨ができる。卵の中に魚の赤ちゃんが生まれた。
この魚が海の中を泳ぎはじめる。
美しい海だ。
そこに現れるのは・・・
海に捨てられた大量のプラスチックゴミ
美しい地球の、美しい生命の溢れる海が
プラスチックがいっぱいになる。
美しく残酷な現実が7分間の映画に表れていた。
・プラスチックは1度海に捨てられると400年は分解されずに海を漂う。
・海に捨てられたゴミは海流の影響で太平洋ゴミベルトという場所に集まり集積され漂いつづける。
・毎分20トンのペースで海にゴミが捨てられている。海洋ゴミの8割はアジアから出ている。
・人間の体内からマイクロプラスチックが検出されている。
・私たちは毎週クレジットカード1枚分のマイクロプラスチックを摂取している。
衝撃的な知識が飛び込んできて、金縛りのように脳を支配された。
それもつかの間、私たち人間は都合よく現実から目をそらし、次のパビリオンに移動し、楽しむ。
楽しかった思い出に浸り、ぐっすりと眠りにつく。
ホテルのゴミ箱には空のペットボトルが5本並んでいた。
・リサイクルに出されたペットボトルのうち本当にリサイクルされているのは9%
私たちは簡単にプラスチックを使い、ゴミ箱に捨てればあとは知らない。
そのあとの行方に責任をもたない暮らしを続けている。
ペットボトルがどのようにリサイクル知れているのかを知らない。
毎日大量に捨てられるペットボトルの量と、毎日リサイクルされるペットボトルの量が釣り合わないのは簡単に想像できる。
なのに、ゴミ箱に捨てれば知らん顔。
波にさらわれた手紙、なんてそんなロマンチックなことは言ってられない。
私たち人間は知能が発達しているが故に文明を発展させ、生きるために地球を壊すシステムを作り出してしまった。人間の欲を止めることは人間である以上誰にもできない。
もう、滅亡に向かって突き進むしかできないのだ。
人間の欲を止める方法など誰も知らない。
それを上回る恐怖を知ること以外は。
しかし、それも想像力のある人間にしかこの恐怖を感じることはできないのだ。