わたゆめ

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泡になりたい

鴨長明の方丈記

行く川のながれは絶えずして、しかももとの水にあらず。よどみに浮ぶうたかたは、かつ消えかつ結びて久しくとゞまることなし。

うたかた、というのは泡のことで、川の泡は消えたり生まれたり、ずっととどまることもなく、人の人生のようだね、と詠っている。

なんだか、この達観した世の中の見方が好きだったりする。


私は大学の研究室時代に泡の研究をしていた。
指の関節を鳴らすとき、パキッっと音が鳴るのをみなさんご存知と思う。
あれは、関節液の中に泡ができて、その泡が弾けるときの音なのです。

もっと詳しく説明するなら、関節液が骨と骨の狭い隙間を流れるときに、狭いところを通るものだから液の流れが速くなり、そのときに反比例して水圧が下がる。
これをエネルギー保存則にならったベルヌーイの法則という。
関節液に漂う小さな泡はまわりの水圧が下がれば、膨張していく。膨張して大きくなった泡は割れて崩壊する。このときに衝撃波を出して音が鳴る。
この現象をキャビテーションというのだ。

そんな断面的な知識は置いておくとして、
面白いのは水の中には目に見えない小さな気泡核が無数にあるということだ。
この気泡核は水分子同士の隙間であったり、コップの表面の汚れの凹凸にはまっている小さな空気だったりする。
これが、目に見えるまで大きく膨張して成長したものを私たちは泡と呼んでいるのだ。

気泡核が泡に成長する原因は主に3つある。
一つは先ほど説明したまわりの水圧が下がること。
水と空気の違いはあるが、山にポテチの袋を持っていくと、気圧が下がってポテチの袋が膨らむのと似ている。
2つ目は水を温めて沸騰させること。100℃を越えると水が水蒸気になり、気泡核の中に水蒸気がたまって大きくなる。
3つ目は、なんと衝撃だ。
コップに炭酸飲料をいれるときに、そっとコップの壁に沿わせて入れる場合と壁に沿わさずにドボドボ入れるときとを比較してみてほしい。
ドボドボ入れたときの方が泡が沢山でる。これは水に水の中の気泡核が受ける衝撃が大きいからだ。

泡一つとっても不思議なことが沢山ある。

泡になりたい、ということはつまりどういうことか想像いただけただろうか?

気泡核くんが泡になる方法は3つあるので、想像してみてほしい。

8/5/2025, 4:08:24 PM